エンジニアなら紙ヒコーキを飛ばして制約を体験しよう

仕事の時間に紙ヒコーキを飛ばす
アジャイルスクラムのワークショップに「紙ヒコーキを飛ばす」というものがある。

ワークショップの概要

  • 3名以上でチームを作る
  • 紙とハサミで紙ヒコーキを作り、時間内に多くの紙ヒコーキを飛ばしたチームが勝ち

進め方

  • 事前打合せ 2分
  • 紙ヒコーキ作り&テスト飛行 3分
  • ふりかえり 2分

ルール

  • A4の用紙を使う
  • 紙は4つに切る
  • 紙ヒコーキの先端は鋏で丸く切る
  • 鋏はチーム1つ
  • 紙ヒコーキを折るとき、同じ人が同じ紙を2回連続で折ってはいけない
  • 紙ヒコーキは3m以上飛んだら1ポイント
  • テスト飛行は「テスト飛行場」のみ可
  • ふりかえり後に作った紙ヒコーキを全て回収

ワークショップの概要、進め方とルールは次のようになっている。このワークショップのルールをみたときに、ビビッと感じた。

「これ絶対楽しい!」

何を感じてそう思ったのかいまだに不明だが、そう思ってしまったのだから仕方がない。兎に角、人を集めて実行するのみだ。



何が学べるか
スクラムの中のスプリント計画レビュー、スプリント、ふりかえりが事前打ち合わせ、紙ヒコーキ作り&テスト飛行そしてふりかりをすることで、スクラムのプロセスをワークショップをとおして疑似体験することができる。
合わせて、プロジェクトを遂行する上で、開発プロセスの中に明示的に、暗黙に存在する“制約”をワークショップを通して体感することができる。このワークショップをすることで、“明示的な制約”と“暗黙の制約”というものが参加する人それぞれに持っているということがあからさまに実感できることが凄い。

ルールの解釈が違う
どういうことかと言うと、チームを組んだメンバが先のルールをそれぞれ読むと同じ文章を読んでいるのに“ルールの解釈が違う”人が出てくる。例えば、紙を4つに切るというルールは、多くの人は縦横それぞれ2等分して切るだろうが、縦横各辺を1センチだけ切り捨てることで紙を1/4に切るより、大きく切りのこした紙でヒコーキを作るというようにルールから発想する人も出てくる。ルール上は、4つに切ることだけ制約として決まっているが切り方は指定されていないので、どのような大きさに切っても違反ではない。


紙ヒコーキはどんな形?
チームが男女で構成している場合や紙飛行機の専門家がいる場合は、注意が必要だ。ルールでは、紙ヒコーキの形の決まりはない。4つに切った紙で時間内に順番に折って飛行エリアで3m飛べばよい。ルールの解釈と同じように、紙ヒコーキの形の指定はない。だからどのような形の紙ヒコーキでも良い。よく見る基本形のへそ飛行機でもスピード機でもイカ飛行機でもいい。だが、このワークショップを始めると一番最初の事前打ち合わせでどのような形の紙ヒコーキを作るか確認しないチームが少なくない。だから、ワークショップが始まると折り始めた紙ヒコーキに複数の形が混ざることもある。さらにチーム編成が男女や専門家が入ると不確定要素が増えることになる。参加したとある女性何人かに聞いたところ、次のような回答が返ってきた。

「紙ヒコーキなんて折ったことがほとんどないなー」
「へっ?そうだったんだー」

つまりプロセスを知らないメンバが存在することになり、折る紙ヒコーキの形や折る順番を知らないから紙ヒコーキ作り&テスト飛行でプロセスがスローダウンすることを意味する。専門家が混ざると逆に、より複雑な紙ヒコーキを選択する可能性もあって、決められた3分でいくつも作れない可能性がある。
ここにも、どのような形の紙ヒコーキを作るか、どのようなプロセスで作るか編成したチームメンバ間でプロセスを明示的に共有しないと3分と決められた時間に1機も飛ばせないかもしれない。


ルールを増減する
紙ヒコーキのワークショップは、チーム対抗戦だが、まったく違った視点で観てみると、別々のチームであっても同じルールを適用することからすべてのチームに最低ラインの標準化をしていることに気付かされる。大規模プロジェクトでは必ず適用する作業の標準化である。同じルールを適用することにより、紙ヒコーキの最低限の品質を担保している、と言うことができる。
ルールでは8つの制約が存在する。一つひとつが制約であって、チームが紙ヒコーキを作る上でのプロセスに影響している。ひとつルールを減らせば3分と言う決められた時間を減らした分だけより作業に組み入れることができるし、9つ目のルールを付加すると作業プロセスが増えるために3分の時間内で飛ばすための時間を食いつぶすことになり、飛ばせる紙ヒコーキの数を減らしてしまう。
つまり、ルールはチームにとっては作業効率を下げる要因と捉えられるし、複数のチームで観た場合の作業品質を保つための標準化ツールとして捉えるられるという二面性を持っていると言うことができる。


終わりに
これ一度やってみたくて、仕方がなかったがようやく実現したときのうれしさと言ったら。あと、後片付けを忘れずに。