なぜエンジニアは実践で“まなび”が必要なのか


プロジェクトマネージャに限らず、システムエンジニアのスキルが伸びることは当のシステムエンジニア自身の願いでもあるけれど、経営を担うマネージャにとっても重大関心事項です。なぜなら、SIerにとってのほとんどを占めるリソースはシステムエンジニアであるからです。経営者にとって企業存続ために利益を最大に得るためにはコストを下げるか売り上げを上げるしか手段がないからです。コストを下げるということは人件費を抑えるということだし、売り上げを上げるということはシステムエンジニアを高く売るということです。


エンジニアを高く売る場合、他の競争相手より価値のある技術を顧客に認めてもらい対価を得なければなりません。競争相手より高い価値とは基礎的なスキルだったり、技術的なスキルの両方を必要な領域を備えて、顧客の課題に応えるということです。


マネージャの仕事はビジネスをキャリーすることと、もう一つ、部下の育成です。部下の育成は、マネージャと当のエンジニアの双方が意識をして目標を設定し、それぞれの立場でエンジニアのスキルを伸長させることのために活動を促さなければなりません。マネージャは、エンジニアの成長を考慮したアサインと成長の後押しをしなければなりませんし、エンジニア自身、自分の成長のために最大限のアクティビティを実行しなければなりません。


形式知は自分の時間をチートする
エンジニアは、だれでも平等に1日24時間与えられていますが20年前と比較しても技術が進み過ぎ、学ぶことが広く深くなっています。その限られた時間をどう使うかは、一人ひとりのエンジニアに委ねられています。限られた時間を何に使うか、それは一人ひとりのエンジニアの価値で決断されつつづけるものだからこそ、一人ひとりのエンジニアの価値が具体的に現れるのです。


マネージャからしたら、ビジネス最大化に関心を払っているからこそ、その限られた時間をエンジニアのスキルの伸長に費やしてほしいと考えるもので、それはマネージャとしての価値観なら極めて自然なことです。一方、部下のエンジニアは、マネージャの価値感はあくまでもマネージャのモノであるから故、それを知ることもなく自分の欲求に応じた関心事に時間を費やすことになります。


マネージャはそれまで自分自身がエンジニアとして過ごしてきたからこそ、知を学ぶことがエンジニアのキャリア形成に一番価値を生むものだと知っているので、部下のエンジニアにはそれを期待するのです。その中で、書籍のように著者が経験してきたプラクティスを学ぶことが自ら実体験で学ぶことよりも手軽に早く学べることを知っています。また、実体験はその人にそもそも訪れてくるかどうかも分かりませんし、訪れるにしても“いつ”体験できるか誰も知ることはできません。そう言ったことも併せて考えれば、形式知としてまとめられている書籍のような形態の知を学ぶことはエンジニアの時間を節約する一番のチート方法です。


実践知はhowがあるから実体験がないと覚えられない
ところが、エンジニアの知は形式知だけでは顧客の課題解決には足りません。なぜなら、形式知はあくまでも他人のプラクティスであって自分が体験したことではないから、どうやって箸を上げ下げすれば要求が満たされるか実感として持っていないからです。


お腹を満たすには、口へ食べものを入れて、咀嚼して飲み込まなければなりません。お腹がすいたらご飯を口に入れて口を上下に動かし、飲み込むと書いてあるとおりにしようとしても、口に入れる食べものの大きさは人ひとりひとりの口の大きさが違うから人に合わせた調整が必要なのです。知識を得ても、はしの上げ下げの具合やその人の口に入るサイズの量や次に口に入れるまでのインターバルは違うから、実際にやってみないとメトリクスも取れないのです。


ただ、実践知は一度それを得ると、とても効果が表れやすいものです。食べ方を一度学べば次は苦労せずに食べられます。しかし、食べること以外には流用できません。食べ方を知っていても、その食べ物を作ることはできないのです。新しい食べものを食べたければ、自分で作り方を形式知として学び、それを実践しなければ口にすることはできません。もちろん、食べものを用意することを外部委託すればそれはショートカットできるけれど、それは経済的に条件が成り立つ場合だけであって、技術を知として持っていなければ何れ破たんするやり方です。


形式知を得て実体験して実践知を得ることは、ある意味内製化することであって、長期的にコストを削減することがでるのです。この観点は一つの価値判断として大切なことで、自分で形式知を学ぶ時間を費やし実体験することで長期的なコストを削減するか、アウトソースという外部委託をするか、選択をするこということです。


具体的な実体験をするということは、学ぶ対象をエンジニア自身が作って手を動かすということであり、自分に持ち合わせていた知と持ち合わせていなかった知を知り、それは実際に体験することで自分の自信をつけながら、過去に得た形式を体験に結び付けて覚え、さらに知の価値を高められるのです。