君にプロジェクトマネージャを勧めたりしない


新人研修を体良く時間どおりに収めて、新人のシステムエンジニアがひとり、またひとり、「お疲れ様でした」「今日はありがとうございました」と退室する風景を放心しながらただ眺めていたのは久しぶりの研修講師だったから。


ワタシが講師をするときには、歩く。ひたすら歩く。研修の日は終日歩くことになるので、普段はすわりっぱなしな体にはだいぶしんどい。座ってやればいいじゃん、て思うこともあるけれど、まぁ、それがワタシのスタイルだからしょうがない。


ひとりの新人システムエンジニアが話しかけてきた。


「プロジェクトマネージャを目指したいんですが、そういった希望は誰に伝えたらいいんでしょうか」


マネージャとプロジェクトマネージャは人気がない職種なんだよね。そんなフレーズが頭を過る。だからこそ、仲間だ、歓迎しなくては、と思い笑顔を向ける。新人のシステムエンジアは、自分の思いを不安げに抱えながらどうすればいいのか困っているのが手に取るようにわかる。新人のシステムエンジニアでは長いので新人ちゃんと呼ぶことにしよう。


グループワークをしているメンバに大学で4年、院卒なのか6年プログラミングを経験している同期がいて敵わないから、と言い訳じみた理由と、専門がプロジェクトマネジメントで…とすまなそうに説明を始める。


新人研修は、1日の終日だから2クラスくらいある人数の一人ひとりのプロファイルなんて事前に見たりはしない。プログラミングの研修なら未経験者を知っておくことは落ちこぼれを予め知っておくことで授業の進度とフォローをコントロールするには有効だろうけれど、ワタシの担当する講座はそういったものとは違うから不要なのだ。不要な情報は不要にバイアスを掛けることもあるから、かえって良くないこともある。


その専門のプロジェクトマネジメントも説明を聞いていると大規模な仙人のプロジェクトマネージャのミッションステートメントだ。ひとことで言えば、プレイングマネージャではない、専門家としてのプロジェクトマネージャだ。EVMを計算して…プロジェクトをやってもマネジメントだけで…と。


「まぁ、そうなるよね」としか感想が漏れない。ある意味正直なワタシの感想ではある。プロジェクトマネジメントの専門なのだから、最初からプレイングマネージャを教えてしまっては型を覚える前に崩れた型を覚えてしまうから。専門教育としてはただしい。だから「そうなる」しか漏れないのだ。


新人ちゃんの説明は続く。プログラミングに自信が全くない。ふたりの同期にはその場を調和させることしかできない、と。なるほど、調整型のプロジェクトマネジメントスタイルなのか、と早合点しそうになるが立ち止まる。


もしかしたら、引け目を感じて誤魔化しているのではないか。十分あり得る。なぜなら、ふたりには面と向かってプログラミングでは自信を持って構えられないからだ。最初から負け試合であることを認めてしまっている。わからなくもない。


でも、でも、会社としては未経験者を含め採用しているはずだ。その点で言えば、ふたりの同期はアドバンテージを持っている。新人ちゃんはマイナスのスタートポジションと思っているようだけれど、それは違う。新人ちゃんがゼロ地点でふたりの同期はプラスのポジションなのだ。ただそれだけ。それに、そのプログラミングだって、先輩達から見たら我流かもしれない。つまり評価できる状況ではないし、そうなんだ、程度でしかない。


それよりも気になるのはプロジェクトマネージャを目指す動機だ。消去法で職種を選ぶのはよくない。オススメしない。結果を出せなかったら逃げてしまうから。


ITのプロジェクトのプロジェクトマネージャは技術がわからないとちょっと辛い。それは他の業界でも同じだろう。ドメインの専門家をアサインできたとしても、勘が働かないからだ。リスクの予見、と言ってもいいかもしれない。


あとは、組織の仕組みもある。制度上、生粋のプロジェクトマネージャのキャリアパスはない。であれば、選択肢は、システムエンジニアとしての実績を残すこと、合わせてプロジェクトマネージャの勉強をすること。このくらいしかアドバイスはしようがない。


ふと、新人ちゃんの会話のニュアンスを感じながら引っかかることがあった。この新人ちゃんにはプロジェクトマネージャになりたい気持ちを否定はしないし進めたりするよりは、アーキテクトの道が向いているのではないか、と。


優しい語り方、丁寧な言葉遣い。そして、いろいろと状況を把握、分析しようとしているところを感じたから。


それは、まだ、プログラミングでの自分の才能に気づいていないのではないか、と。だから、だから、ワタシは君にプロジェクトマネージャを進めたりしない。