エンジニアは本を買わない

「お疲れでーす。何か最近面白かった本とかありませんか」
「私の専門を知っているんだからキミにフィットしないとわかるだろう」
「いやいや、アジャイルの本とかは割と早く読んでいるじゃないですか」
「ああ、そうかも。積読が多いけどね。Kindle版を買うと可視化されない積読なのでよりひっそり感がある積読になっているんだけどね」
「同じようなものですよ」
「そう言えば相変わらず技術書は机に積んでいるの」
フリーアドレスになってから固定席ではないので困りますね。ロッカーも小さいし。2−3冊くらいしか。プロジェクトルームがある時はそこに積んでおきますけど」
フリーアドレスになって、ますますエンジニアは技術書を読まなくなるのかねぇ」
「そうかもしれません」
「出版不況だというのにエンジニアが書籍を読まなくなると負のスパイラルが加速するしね」
「ジワリと値段も高くなっていますよ。欲しい技術書は躊躇いませんけど。でも、周りを見ていると本を席に積んでいるエンジニアは少なくなったような気がします。アプリ開発にいれられるじゃないですか。ほんと、アプリ開発のエンジニアが本を読んでいることは見かけないですね。10人いて1人いればいい方ですから」
「なんでいくらでも買うぜ、なんだっけ」
「昔のマネージャが給与の10%は本を買って読まないとエンジニアとしての価値があっという間にゼロになるぞ、って刷り込まれたからかなー」
「定率か定額かは置いといて、技術知識を更新したり拡張しておかないと確かに価値はあっという間に減ってしまうな。特に、技術の適用するスキルはその傾向が高いな」
「言語とかフレームワークとか製品とかですね」
「そうそう。バージョンアップしたらそれまでの技術が終わっているときがある」
「それはツライですね。技術の更新を追いかけるのもツライし、EOLになったらなったでツライですし」
「でさあ、結局、何某かの技術書を買うのは避けられないのだと思うんだ。エンジニアとしての価値を最低限維持しようと思ったら。でも技術書が売れていなくて不況らしい。エンジニアは技術書を買うものだと思ってたんだけれど、それは技術習得をエンジニア自身が価値の向上、いや維持でもいいけれど投資として書籍に給与の一部を再投入しているという仮説は間違っていたということになるんだけどさ」
「売れていないなら何かが間違っているのでしょうね」
「そこでだ、エンジニアは技術の向上や維持のために書籍に投資をするという前提が間違っているとしたら」
「あー、そういうことですか。技術力向上も維持もしないエンジニアが増えたということですか」
「かもしれない。でも、別の見方があるかもしれない」
「具体的には」
「書籍を買うのはエンジニアの中でもプロフェッショナルだけ、かもしれない」
「プロフェッショナルだけに限定したら売れないでしょうね。ITSSレベル6くらいですか。それは人数少ないでしょう」
「さらにだ、昔、20年くらい前に比べて技術の細分化が進んでいるとしたらどうなると思う」
「エンジニアの母数が、その細分化された末端の、ですが、エンジニア数が少ないですよね」
「そうだよ。そこに本を買おうと思うのはエンジニアの中でもプロフェッショナルだけだとしたら」
「売れる気がしないですね。売れないですよ、それじゃあ」
「だろう。まだ別の考え方の軸があるんだよ」
「なんですか、それ」
「どのジャンルでもマニアという層がある」
「ありますね。カメラとか鉄道とか天文とか無線とかアニメとか」
「詳しいね。それはそれとして、みんな趣味の欄に読書と書くけれど、常に新しい本を買うとは限らない。芥川賞でも図書館に行って借りる人は多い。そういう人だって趣味は読書だ。いいよね」
「まあ、いいんじゃないでしょうか」
「新書で買うのはマニアだけだ」
「あ、そういうことですか」
「つまり、プロフェッショナルかそれに準じる層と書籍のマニアが交差するポイントの面積だけでしか本が売れない」
「でも、ゼロから作るDeep Learningの本とかリーダブルコードの本とか売れているらしいじゃないですか。ポップに貼ってありましたよ」
それはキャッチーな技術だったり、新人教育で全員に配布したりしたから結果的に母数が広くなったからだとしたらそういった現象が起きていても不思議ではない」
「なるほど、習得科目の教授の本を買わせるようなものですね」
「新人教育に使われる本が売れる理由の方は微妙な発言なきがするが…まあそいうことだよ」
「どのくらいしか売れないんですかね」
「仮に60万人いて、1%が技術エリアの母数なら6000人になる。そのうち、プロフェッショナルで且つマニアな交わりの面積は10%あったとしても600冊。まあ、素人の仮説だけどね」
「600冊なら大手サークルの方が売れていますね」
「壁サーと同列にしては不憫だよ」
「どうなっちゃいますかね、技術書は」
「多分、電書化が進む。紙は減るし、値段が上がる」
「じゃあ、持っている本にプレミアつくかな」
「電書があるからね」
「じゃあ、サインしてもらおう」
「それこそマニア向けになっちゃうよ」

 

 

 

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