信頼のない数字の進捗

朝会はいつものとおり終わったのだが、どうも今月から参画してきたパートナのメンバの進捗がおかしい。ここ数日、実績が80%と言っている。このプロジェクトでタスクを担当するとき、進捗のステータスは、未着手か、完了しかないハズだ。朝会では、実績、予定、進捗上の障害があれば自分から申し出ることになっている。進捗上の障害かどうかの判断は、見積もり時間の半分を過ぎたとき、想定した時間で終わると見込めなかったら、その時点で誰かに声を掛けることになっている。それを守っていないことをセンパイは気づいているハズなのに。どうして見逃しているのだろう。

 

わたし「あの、先月から参画してきたパートナーの人の進捗、先週も80%でしたよね。何かはまっているんですか」
センパイ「いや、標準サイズだと思うけどね。プランニングポーカー的には」
わたし「どういうことですか」
センパイ「技術レベルがチームの平均以下か、甘く見られて手を抜いているのか」
わたし「いいんですか」
センパイ「様子見中。自分で気づけばいいけど、気づけないなら、ね」
わたし「相変わらず厳しいですね」
センパイ「そんなことないだろう。他のメンバは各自のレベルに応じて成果を出しているよ」

 

システム開発のプロジェクトで進捗が80%なんてネタだと思っていた。第一、このプロジェクトでのタスクは、未着手か着手か完了しかない。タスクの単位も時間だし、1日以内で終わるサイズに区切ってある。

 

わたし「進捗報告が80%で止まっているって周りは気づかないと思っているんでしょうか」
センパイ「さあね。実際のところ、エンジニアが進捗をどう捉えて、どう報告するか、誰も教えてくれないからね。あのメンバも知らないんじゃないかな」

 

このプロジェクトの進捗ステータスは、未着手、着手、完了しかない。つまり、着手したときは0%、完了は100%しかない。それに1日で終わる見積もりのサイズだから、進捗の仕組みをわかっているなら午後には相談しなければおかしいことはチームメンバなら誰もわかることなのだ。

 

センパイ「定量的に捉える意味をわかっていればね、気づくと思うんだけどさ」
わたし「まー、わたしもセンパイに教えてもらったから知ったような口をきくことができるんですけど」

 

わたしもセンパイのプロジェクトに入って初めて定量的に数字を扱うことの意味を知ったのだ。それまではなんとなく感覚で進捗を報告していた。タスクはもっと大きなチャンクだったし、タスクの期間も長かった。進捗報告ではつい、予定完了日の半分の日程まで進んでいるにも関わらず、実績はまだまだのときでもつい日数分だけ進捗していると言っていたことがあった。今ではもう考えられないが。

 

わたし「センパイはいつからおかしいと気づいていましたか」
センパイ「ん、そうだな。タスク渡したその日、かな」
わたし「えっ、そんなに早く、ですか。で、それでいいんですか」
センパイ「よくないよ。でもね、ほら、二十歳を超えた大人だよ。大人のエンジニアにそんなベーシックなことを教えるのも失礼じゃないか」

 

すごい皮肉にしか聞こえませんが。 それでもどうしてすぐに気づけたのだろうか。

 

センパイ「気づいた日を教えたら目を丸くしていたけれど、キミだってわかるだろう」
わたし「いいえ、ちょっと難しい…」
センパイ「いいところまで行っていたと思うけどな。見方を変えればいいと思うよ」
わたし「見方、ですか」
センパイ「ステータスは未着手と完了しかないじゃん。そこで80%という時点で情報に信頼性がないんだよ。あの人のは」
わたし「情報の信頼性、ってなんですか」
センパイ「0と100しか取り得ない数字に80だよ。誰が信頼できるんだい。即刻、ご退場願いたいところだけれど。これだったら新人を教育した方がいいね」
わたし「あっ、あーそうか。0か100ですよね。あと、中間点があるから敢えて言うなら50%もありますね。でも、中間点でヘルプを出すから50%じゃなくて障害があると言わなければいけないですね」

そうだった。以前のセンパイのプロジェクトで、顧客に合わせた進捗のときは今やっているタスクのサイズの進捗を顧客が欲しいサイクルの進捗に合わせてまとめていたんだった。タスクAとBまで終わったら50%、Cまで終わったら80%、Dまで終わったら100%って。

あれはあれで報告するための進捗実績を加工する必要があったけど、上手に対応していたなー、センパイ。

そう言えば、こうしたシステム開発のお作法っていうか、教育ぽいことってみんなどこで覚えてくるのかな。