メンバが転出先で“使えない”とだけは言われたくない


運用ツールどうするのよ?
ずっと前の話。
当時の組織のマネージャになって、いくつも流れるプロジェクトを並行してプログラムマネジメントしていると、ご多分に漏れず、日々、課題やらトラブルがやってくる。大体は、プロジェクトの中で自ら仕込んでいるものばかりだ。
ソリューション型のビジネスの場合、パッケージソフトウェアの導入と顧客要求に合わせるためにカスタマイズやアドオンを開発することが多く、それに伴い、追加でハウスキーピングも付随してくる。そうなると、それに人手はかけたくないし、テストをするにしたっていちいちプロセスをコマンドで上げ下げしたくないから、運用ツールが欲しくなる。
同じパッケージでもプラットフォームが違えば、OSのライブラリに標準で入っているスクリプトは違うし、OSがメジャーアップデートしていれば、スクリプトのも変わっていることもある。与えられる環境は、その時期で違うけれど、やりたいことは変わらないから何らかして対応しなければならない。
で、プロジェクトガヤガヤやっているところに首を突っ込むと、こんな会話をしていた。

エンジニア「○○スクリプトしか組んだことがない。△△は知らないし、やったことがない。」
PM「運用ツールは必要だから、いついつまでに作って欲しいんだけど。」
エンジニア「勉強からはじめないと。」


とか、

エンジニア「トラブルになったのはバグでした。」
PM「原因は?」
エンジニア「チェックしていませんでした。」
PM「それ、仕様に書いてあるでしょ。なんか、ロジックもおかしくない?」


重点育成方針の生まれる瞬間
まぁ、ビックリしました。技術者なのに技術を習得する機会にハードルを設ける。自分がエンジニアで生きて行くと決めているなら、一つの言語しかプログラミングできないなんて、

「この人、将来何で食べていくのだろうなー。」


って思ったわけ。これはいけない。このままでは、ワタシのチームの技術的な負債になってしまう、と。ロール的にも、プロジェクトのキャリーから言っても、誰かがそれをやらなければdeliverableが揃わなくなってしまうし、顧客との契約を守れなくなってしまうので、

「PMとスケジュールを調整するからやりなさい。」


とその場では判断するわけです。
で、現状を聞いて回ると自分から新しいスクリプト言語をスイスイ手をつけるメンバもいれば、まったく関心がなく、言われればやります人もいれば、言われてもやりたくないです、とバラバラな状態で。
あぁ、コレはいけない。必要なものは自分で組めないと。プロジェクトマネージャならまだいいが、そうでなければいけません。また、

ワタシ「アルゴリズム知っている?」
エンジニア「何それおいしいの?」


とか。うーん、新人研修で触りでもやらなかったのかなー、アルゴリズム

これを知ってしまったので、中堅、若手を中心に育成方針を決めて、一人ひとりに面談時にプログラミングとアルゴリズムを育成目標にするように助言することをはじめた。



それはアナタの価値を上げること
半年も経てば効果はでてくるもので、特にアルゴリズムを知った上で、プログラミングをすると、それ以前と比較して

エンジニア「やってよかった。」


と、まるでテレビの健康食品のコマーシャルのように答えが返ってくるようになる。一人が感じれば、それを隣に伝播するようになり、別のメンバも“それをやっていて、楽をしている”メンバを見ると自分もやってみようと思うようになる。フォロワーができる瞬間だ。

自分自身、プログラミングのセンスがないのでプロジェクトマネージメントに軸足を移した経緯があって、一方的にエンジニアだからプログラミングをしなさい、だとか、アルゴリズムを知りなさい、とは言えないが、その人がプロマネではなく、エンジニアを選択しているなら、それはできなければ、40歳、50歳になったときに困るのは当の本人なのである。
その歳までワタシのチームメンバである保証はないので心配しなくて良いのだけれど、今だって期待に足らなければ、自ら補うように仕向けなければならない。だって、そういう状況であることを知っているのだし、それがプロフェッショナルのgive backであるから。

あと、そのメンバがいつまでもこの仕事についていられる保証は何処にもない。それは、


いつ、辞令が出て、まったく畑の違う部署に異動するかもしれない


という、当たり前なことに当の本人が気付いていない。マネージャは、メンバが急な辞令が出て転出することなっても、


転出先で活躍して欲しい


という願望を持っている。転出先で“使えない”とだけは言われたくない。

本来であれば、エンジニアがアルゴリズムを覚え、色々な言語を操ることは、自らのエンジニアとしての価値を上げることであって、それは、自分の給与を上げる一つの理由を作ることでもある。

若いうちは、教えてもらうこと>教えることの符号号記号が、ある閾値を超えると、教えてもらうこと<教えることに変わる。それは急にくるもので、自分で決めにくいものでもある。なぜなら、周りのアナタへの経験に付する期待を込めた評価であるからだ。

エンジニアは自ら価値を上げ続けなければならない。これはこの道を選んだのだから仕方がないことだ。それより、興味を持ち続け、アレコレ手をつけて、価値を上げたほうが幾分は、楽しくエンジニアを続けられそうだと思う。