稼働率原理主義でシステムエンジニアを売るとビジネスの旨味がない


SIerのビジネスとして稼ぐ資源のほとんどはシステムエンジニアです。自社ブランドのハードウェアやソフトウェアを持っていれば、そうしたモノも勿論資源になんですがそのモノのセグメントにおいて圧倒的な優位性、つまり言い値でも買ってくれる理由が顧客になければコンペティタとの価格競争に入るのであっという間にコモディティ化して定価なんてあってないようなものになります。だから、入札とかでハードウェアやソフトウェアが平気で90%の出精値引きで出してくるわけで。


話をシステムエンジニアにもどします。不況下であれ、好況下であれ、資源はイコールコストです。だから、コストを利益化しなければ赤字になります。赤字は組織が企業として存続するための根本的な原則に反するのですから許されません。だから、トップから「案件を取れ!」とハッパが飛ぶのです。それは、暗に「コストを利益化しなさい。」と言っているのにすぎません。


売り手は、その組織に顧客に買ってもらいやすい価値を見出し、それを前面に押し出して営業を掛け、実際に利益に結び付けることが出来る文化を持ち合わせているなら、トップからそんなハッパを飛ばされなくても先を考えてオポチュニティを見つけ、案件に持ち込んでいるでしょう。もちろん、システムエンジニアを抱える開発部門だって同じです。売り手がセリング出来るソリューションを持っていなければ、いくら案件を取ってきてもデリバリーで赤字になるだけですから。そんなことをしたら、元々の固定コストのシステムエンジニアの費用に赤字が積み重なるわけでそんなことになったら目も当てられません。そんなになるなら、何もしない方が赤字が見通せるので精神的につらくないです。まぁ、レベルの低い話ではあります。


システムエンジニアを生産設備と同じ考えに当てはめて考えます。売れていないシステムエンジニアは維持するだけで給与を支払わなければならないのでコストになります。注文を受け生産設備を稼働させることで製品として出荷すると売値の原価に生産設備の減価償却費を含めて回収することが出来ます。受注が多くなればなるほど、生産設備の固定費を売値に転嫁し続けることになるので固定費となっているコストを目標に受注を取ろうとします。まぁ、当たり前ですね。


では、システムエンジニアも同じように抱えている人数だけ売ればいいのか、ということです。良いのか悪いのか。悪いことはないですね。あるところまで、は。


なぜ、あるところまで、なのでしょうか。生産設備とシステムエンジニアは同じコストではないのか。同じコストだけど、同じではないんです。コストという概念上では同じですが。


実は、生産設備だって、その設備のモデルや種類の違いによって、コストとなる固定費は違います。単機能の生産設備と多機能を持つ生産設備は取得価格が違うようにコストも違います。同じようにシステムエンジニアも単機能工のシステムエンジニアとマルチスキルのシステムエンジニアとでは出来ることが違います。


あれ、生産設備もシステムエンジニアもおなじですね。出来ることでコストが高い、はず。


生産設備を働かせる=稼働させてコストを回収することを数値で表した帰結が稼働率(本来は『生産設備の総数に対し実際に動いている設備の割合』)とすると、その生産設備のコストをチャラにするには受注することが最優先になります。だから、その生産設備で生産できる製品を売ればいい。


じゃあ、と同じようにシステムエンジニアをコストの面だけで売るとどうなるか。もちろん、持ち合わせている非稼働のシステムエンジニアを売れば売るほど、生産設備と同じようにコスト=人件費がチャラになるわけです。で、全部売れればいいかというと、新たな問題が出てくる。そう、売り上げが頭打ちになる。


どうしてそのようなことが起きるかというと、簡単な話です。


システムエンジニアをコストとして抱えている間はコスト垂れ流しの状態なので、早く利益化したいのでプレッシャが掛かります。顧客に売るときに単機能工を売るより多機能工の、マルチスキルのシステムエンジニアを売る方が売りやすいに決まっています。そうしたとき、楽に売りたいからマルチスキルのシステムエンジニアを単機能工の売値に近いところで売るわけです。だって、お得ですよ、と価格で見せるのが一番わかりやすいですからね。


結果、出来る人から売れていく。残るのは単機能工のシステムエンジニアか、使い物にならないシステムエンジニアか、たまたまプロジェクトが終わったシステムエンジニアです。


本質論で言えば、案件が要求するスキルセットを持つシステムエンジニアを案件ごとに精査して売らないといけないのに、安直に、楽にビジネスをするようになるからシステムエンジニアの稼働が高くなれば高くなるほど伸びがなくなるし、それまでは難しい案件には出来るマルチスキルのシステムエンジニアを充てられていたのに、残っているシステムエンジニアで対応しなければならなくなって、必然的に溶鉱炉にサムアップをしながら下りていくことになるわけです。


資源であるシステムエンジニアをコストから利益化することはビジネスとしてはやらないといけないことです。ただ、何も考えず、来た案件順に売りやすいマルチスキルのシステムエンジニアから売ろうとしていたら「ちょっと待て。」と思う事です。


そうしないと、稼働は高いのに、利益が少なく、最悪は1件のトラブルプロジェクトで赤字に転落しかねません。