焼そばと要件定義

「ところでさぁ、焼そばってあるじゃん」
「焼そば、美味しいですよね。今日のお昼は焼きそばにしようかな」
「少し早いけど、お昼いこうか」
「ちょうど、キリがいいので行きましょう」

「で、やきそばがどうしたんでしたっけ」
「あー、そうそう、焼きそば」
「そうですよ、焼きそばです」
「要求仕様が『焼きそば』だとするじゃん」
「『要求仕様』が焼きそばですか。何の話ですか」
「まぁまぁ。お客さまから焼きそばの要求仕様が出てきたとする」
「お客さまの要求仕様が『焼きそば』と出てきたんですね」

「じゃあ、SIしてよ」
「焼きそばで『システムインテグレーション』ですか」
「そう、焼きそばでSI。だからキミはSIerだね」
「焼きそばのSIerですか。うれしくないですね」
「モノづくりという観点では同じだからさー。SIしてよ、プロマネさん」
「えっ、ボクがプロマネですか」
「ほら、女の子とプロマネのアサインは突然降ってくるものだから」
「何言っているんですか。いや、確かにシータは空から降ってきましたけど」

「じゃあ、プロマネさん。焼きそばをSIしてくださいよ」
「変な流れだなぁ」
「そうかな」
「焼きそばの他の要件はありませんか」
「うーん、ないなぁ。今は」
「そうですか。じゃあ、普通の焼きそばでいいですね」
「普通の焼きそば…」

「1000円です」
「何が」
「焼きそばのSI費用です」
「高いなぁ。もう少し何とかならないの」
「中華料理屋さんは750円ですから、経費と粗利込みで1000円です。だいぶ良心的なんですよ」
「今月はピンチなんだよ。半額にしてよ」
「え、この前ボーナスでたばっかりでしょ」
「10thの物販でたくさん買っちゃったんだよ」
「知りませんよ、そんなの。1000円でお願いします」

「だいたい、1000円の焼きそばってどんな焼きそばなんだい」
「五目餡かけのかた焼きそばですよ」
「あー今ねぇ、口内炎があるから硬いのは嫌だぁな」
「そう言うの先に言ってください」
「聞かれていないもん」
「なんですか、子どもですか。確かに『どんな』焼きそばかは聞いていませんでしたけどね」
「ほらー、そうだろう。あと値段をね、何とかしてよ」
「このお店だと1000円なんです」

「どういった仕様なの」
「かた焼きそばに、五目餡が掛かっています」
「その仕様は承認できないなぁ」
「どうしてですか」
「出てくるまでに時間が掛かるから」
「早い方が良いんですか」
「そうだね、アジャイルで」
アジャイル関係ないでしょ。焼きそばですよ、や・き・そ・ば!」

「もうお腹ペコペコなんで、早くね」
「そんなにお腹減っていたんですか。だったらそう言ってください」
「聞かれていないもん」
「言ってくれないとわからないじゃないですか」
「でも、キミはSIerなんでしょ。プロフェッショナルなんでしょう」
「…。じゃあ、どのくらいの時間なら待てるんですか」
「なる早で」

「1000円の半額の予算で、なる早で、か。どうしようかな」
「あのさ、仕様は比較検討しないの」
「でも、五目餡かけのかた焼きそばはダメなんでしょう。あとは何があるかな、焼きそば」
「仕様を提案してよ」
「えっと、プランAはソース焼きそば。プランBは塩焼きそば。プランCは焼きそばパン。どうですか」
「それ500円以内なの」
「そうですよ。コンピに焼きそばですから」

「手作りが良いなぁ」
「何言っているんですか。できないですよ」
「え、プロフェッショナルなんだから出来ないっていうのはダメでしょ」
「いえいえ、この前最高裁で棄却された上告があったでしょう。出来ないときはできないと言わないといけないんです」
「でも、それじゃあ風評被害になるかもね」
「またそんなことを言って」
「手作りが良いなぁ」
「料理できる設備がないでしょう」
「週末でいいならできるんですよ、でもなる早なんですよね」
「そう、なる早」
「じゃあ、しょうがないですね。四角くて食べやすいソリューションを提案します」
「おっ」
「500円以内でなる早でデリバリ出来ます」
「それだよそれ」
「ぺヤングでよかったんですか」