設計する力は衰退しました

 

 

「あいつはダメですよ。全然製品仕様を調べていないんですから」
「え、どうしたの」
「あれじゃあ要件を満たす製品の組み合わせをできない」
「だからさ、どうしたの」
「設計資料を作らせているんですが、仕事は遅いし、機能要件を満たしているかどうか確認しないで聞いた話だけで資料を作っているから裏付けがないんですよ。設計力がないんですよ」
「仕事が早いかどうは人それぞれだからさ、マニュアル読まないのがダメだって言っているのかな」
「ああ、すみません、言い過ぎました」

製造業で技術力が落ちていると言われて久しいような気がしますがシステム開発でも同じなんでしょうね。

でもですねぇ、どうしてそうなっているかをはっきりと突き詰めてないと。単に最近の若者は、中堅層のエンジニアの技術力がなくなったなんていうのは簡単なんです。それに無責任。それが組織の仕事なら。

中堅のエンジニアになったらミッションの1つに次世代の育成があります。それを履行してこなかったから今の事態になっているのではありませんか、とまずは自分に人差し指を向けて問うてみましょう(自戒)。

 

「それで」
「設計する力がないんですよ。あいつはもういいベテランですよ。それなのに自分で裏を取ることもしないで人から聞いた話や製品ベンダがいうことを疑いもしないんです」
「まあ、マニュアルに書いてあったとしても動かないことあるしねー」
「それはそれで製品を直させればいいんです。仕様を押さえないところが許せないんです」
「痛い目に合わないと学習しないタイプかな」
「そんなことされても困りますって。リカバリしなくちゃいけないじゃないですか」

 

やらないと身につかないですよね。それは設計書を書くとか設計書に書く前のデザインをするとか、デザインする前の機能仕様の情報を集めるとか、機能仕様の元になるシステム要件から仕様を抽出するとかそう言った情報を集めて、作業の目的を設定して、それを達成するアウトプットを作る作業は特に。

エンジニアに限らず、人は知っていることからしか発想できないし、知っているということは見聞きしたことよりは実際に体験したことからの方がより鮮明に具体的にこれからやろうとしていることを想像することができるのですよね。

やらないと覚えないし、身につかないし。でもですねえ、システム開発のお仕事は、どれ一つ取っても同じ作業がないんですよ。何かしら条件なり要求が違うんです。一つのやり方を覚えれば、あとは繰り返し作業、というのはないんです。

それでも仕事のお鉢が回ってきたら、始末しなければならないのです。過去の類似の経験を引っ張り出してきて。

それをするためには練習しなければ身につけられないのですが、練習する場がないのですよ。PCで開発できるようになったりクラウドが出てきて手軽に練習ができるようにはなりましたがそれをやっている人は一握りですね。観測範囲では。

でも、それで諦めては仕事にならないです。次世代を育てるミッションのところが達成されない。それもまた簡単にはできないのですけれど。

 

「でもさぁ、やらせないと覚えないよ」
「時間があればそういう手段もできると思います。否定はしませんが、今はそう言っていられないんです」
「それも正論だし、現場のリーダとしたらそうなんだと思うよ」
「それでもさ、いきなり身につけられたりしないじゃない」
「経験は必要です」
「それが今なんでしょ。リーダとしては葛藤するかもしれないけれど、考えさせて手を動かさせないとね。期待しているんでしょう、その人にだって」
「それはそうです。工数使っているのですから」
「それは一面だけを見すぎているという感じかな。楽するために今かけられるコストを使うという考え方もあるよ」

 

エンジニアが何かをアウトプットするには情報を集めてアウトプットの形態に合わせて処理することが必要ですが、情報を集めるだけでもどこまで集めればいいかという判断をしなければなりません。

そうなんですよね、決断力が必要なんです。それが甘いエンジニアが少なくないのですよね。リーダさんもちゃんとマニュアルを読んで、製品仕様を押さえて(裏を取った上で)エンジニアとして機能仕様をデザインしなさい、って言っているのは全くそのとおりです。

決断力を裏付けも持たずにエイって博打を打っているじゃないのっていうエンジニアが多いんですよ。そんなのちょっと考えたらわかるだろうとっていうところをやらない。そのちょっと考えたらの多くは情報をとる範囲を少し広げたら、ということです。広げすぎるとキリがないのでどこかでバウンダリの線引きをしないといけないですがそれにも決断する力が必要になりますけれど。

何度かエントリで書いていますけれど、練習させないと身につかないし、とは言って、仕事でそうそう練習する時間は取れないし、時間が確保できたとしても練習する材料が都合よく手配できるわけでもないし。そうすると元に戻って現場で工数の枠の中でやらせるしかないんですよ。

ただ、職人制度ではないので技術は身につけてもらわないといけないのです。技術移転ですね。それを意識的にやらないと。工数の半分をマイルストーンにやらせて、チェックポイントで修正させるようなやり方をするしかないかもしれないです。いちいち口出すのも違いますし、最後まで行ってダメだったもやりきれないですし。

設計する力がないんじゃないと思いますよ、教える側の不作為と機会を与えていないことが原因で次世代の設計する力を衰退させてしまったんです。

 

 

 

なぜ重大な問題を見逃すのか? 間違いだら けの設計レビュー 改訂版

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