エンジニアとして仕事をする大義は何か

「こんにちは、センパイ。相変わらずお忙しいですか」
「見てのとおり、今日は忙しいよ」
「じゃあ、また今度にしますね」
「いいよ、今ので思考切れたし。あ…そろそろコーヒーでもと思っていたから丁度よかったんだ。なかなか区切れないときってあるじゃん。それだったしさ」
「センパイに気遣ってもらって後輩としては嬉しいです。ありがとうございます。ではそのコーヒーを奢ってもらいますね」
「やっぱりそうなるのか」
「わたしに奢れるセンパイは少ないんですよ。名誉職ですね」
「はいはい、いいよ。行こう」

「それで」
「それでとは」
「来た理由。話してみたら」
「そう来ましたか。先を読まれるのは好きじゃないですね。じゃあ雑談でも」
「コーヒーあげないよ、ちゃんと話してくれないと」
「ではお聴きますけれど、センパイはどうしてエンジニアとして仕事をしているのですか」
「どうしてって、そりゃお金稼がないと。それだろう、誰だって」
「でも他の仕事だっていいのに手間の掛かる難しいエンジニアを選ばなくてもいいじゃないですか。他の仕事を差し置いてエンジニアとして仕事をする理由は。何がセンパイをそうさせているのですか」
「何でエンジニアを選んだか…どうして、ねぇ。ふーん、そうだなぁ…それ大義みたいなものなのかな。大義ねぇ…ないよ。大義なんて」
「何も」
「何もない。きっぱり。ない」
「言いにくいことなんですか」
「詮索するなー、いつもだけど。じゃあさ、なんで後輩ちゃんはエンジニアとして働いているんだ。他にも仕事は選べたはずだ。後輩ちゃんの能力なら。なんで」
「ひどいですね、質問に質問を返すとは。それはダメだと教えてくれたのはセンパイですよ。いいですけど。わたしの大義ですか。そうですね、なんでしょうね。考えたことなかったです。」
「だろう、大義なんてそんなの持ち合わせている人なんてそうそういないんじゃないか」
大義というから引くんじゃないですか。ほら、もっとカジュアルに考えてみたらどうですか」
「カジュアルにって…言い方変えても中身は変わってないよ。そうだなぁ、エンジニアとして仕事をする大義って、それをするために守る道義なんだよな。踏み外さない道だよなぁ。…それって価値観だな。価値観。そうだな、そう考えると考えやすいかな」
「でしょう、そうしてください。カジュアルに」
「俺の場合はさ、プロフェッショナルとして恥ずかしくないかなんだよ。プロとして自分がそれに満たない行為を選択しないことが価値の判断基準なんだ。言い方を変えればイズムだな」
「へーそうなんですか。プロとして恥ずかしくない判断をしているか、と。それは伝わり易いですね。なるほど」
「でさ、どうしてこんな質問をして来たの」
「あ、そろそろ行かないと。センパイ、コーヒーごちそうさまでした。続きはまたコーヒー奢ってくれたら話しますね」
「また逃げられた…いつもの風景だけど」

 

 

天才たちの日課  クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々

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