メンバの逐次投入が愚策であることをコミュニケーションコストの視点で考えよう


あるプロジェクトがあったんですが、そのプロジェクトは「トラブル、トラブルではないのどちらかなのか?」と尋ねられたら後者のトラブルでないプロジェクト、と答えるでしょう。ただ、そのプロジェクトは様々な事情があって、メンバの入れ替わりが激しいプロジェクトでした。


トラブルプロジェクト、所謂、デスマーチのプロジェクトが炎上している対処方法の<悪い例>として、リソースの逐次投入というのがあります。

プロジェクトがトラぶる
 ↓
応急措置として一人入れる
 ↓
追加要員がミイラ取りがミイラになるように取り込まれてしまう
 ↓
また一人入れる
 ↓
以下ループ


このループに入ると、気づいたら「応援に何人入れたの?」状態になっていること請け合いです。その上、トラブルは拡大する一方で、人は随分投入したのに全く効果がない、というような状況に陥っていた、と。


一般的には、人的リソースを逐次投入するくらいなら効果的な対策が立てられるまで断食させるか、逆にドカッとリソースを投入してリカバリしたい状況まで回復させる策を選ぶものです。後者の場合、必ず言われるのが人を入れるとオーバヘッドが掛かる、といわれるんですが、それ、大量のリソース投入時だけなんでしょうか、と。


新しいチームのコミュニケーションの醸成プロセス
どのプロジェクトチームもプロジェクトキックオフ時は真新しいメンバでチームを編成するものです。当然、過去に同じチームで働いていたなんてこともあるでしょう。それでも最終形態になるまでには何人か初めて一緒に仕事をするとかはじめて担当するロールがあったりとか同じ人や役割で組むことはほとんどないものです。それはスクラムの<チームメンバを変えるな>と言われることが同じチームメンバでチームを続けて行くことが難しいことを端的に表しています。


新しいチームと新しいチームの規律
新しいチームが編成されれば、新しいチームのプロジェクトマネージャはプロジェクト計画に沿って、規定をひっぱてきたり作ったり、運用上必要なルールを決めていきます。それは日々のチームメンバのふるまいを制限することになりますが、同じチームのメンバが同じルール下で所作することでチームのメンバの誰がやろうとも同じ作業の品質を得られることを期待できるのです。


ルールと躾け
人は過去に身に着けた作法は覚えているものですが、新しいルールを覚えるまでは時間がかかるものです。だから、新しいチームのルールはその都度、チームメンバ全員が意識してふるまわないと身に着けられません。それを躾けるのも作業品質を確保するためにプロジェクトマネージャがしなければならないタスクの一つです。そしてその躾けは継続的に行われる慣れるものです。


躾けから日常化へ
日々の躾けは、日々のタスクの対処をふるまいとして現れます。その躾が身に付き、意識しないでふるまえる様になったとき、初めて日常化されたと言えます。


日常化されたチームのルールは、それをするのが当たり前になっている状態で、それは所作がパターンとなったと言ってもいいのです。躾けでルールがパターン化され、メンバの意識下に刷り込まれたわけです。それは明示的なルールが暗黙に変わった瞬間でもあります。


ルールが暗黙に変わった瞬間から、コミュニケーションに費やされるコストが下限まで下がります。暗黙化されることでコミュニケーションコストが低減され、その結果、メンバはその暗黙となったルールはそれをすることが前提としてコミュニケーションをするところからはじめられるのでコンテキストが高い状態で意思疎通をはじめればいいことになります。それをコミュニケーションコストが下がっていると表現しています。


メンバの参入によるコミュニケーションの変化
チームのルールが暗黙化され、コンテキストが高い状態になっているチームに新規メンバが参入してきたらチームのコミュニケーションにどのように作用するか。


新規メンバが参入する前の状態は、チームのルールが日常化され暗黙でそれをするのが当然という状態でコミュニケーションされているのです。それが、新規メンバが参入することで途端にコミュニケーションコストが跳ね上がることになります。


それは当然ですよね。新規メンバはチームのルールも知らないし、無意識にチームのルールとして行動できるように刷り込まれていないのですから。新規参入のメンバが入ることで、高いコンテキストによるコミュニケーションの状態がリセットされるわけです。そして、新規参入メンバがチームのふるまいを身に着けるまで、コミュニケーションコストは払い続けることになります。


トラブっているプロジェクトに逐次投入すれば
上記のチームのルールを躾けで身に着け、日常のふるまいになるまでに相当のコストがかかります。それは平常のプロジェクトの状態であれば、です。それがトラブっているプロジェクトチームにはどう映るでしょうか。もともと、コミュニケーションコストが普通に運営できているチームより高いコストを払っている=コミュニケーションが悪い状態を想像する方が容易いでしょう。


その状態で逐次投入すれば、それは結末を感がる必要もないのではないか、と。そうしたコミュニケーションコストの面で考えるだけでも逐次投入するよりドカッと投入する方がコミュニケーションコストを下げる分、本来のトラブル解消にかけられるコストを確保できると考えられるのです。