出来るエンジニアなら「こういうケースでどういった対処をしたらいいかナレッジを持っていませんか」なんて訊いたりしない

「今、契約している工程で顧客と仕様を整理しているのですがレスポンスが想定より悪くて期間を延ばして追加契約をしたいのですが。」
「何時から何時まで伸ばすの?」
「今の契約が月末なので3週間欲しいです。」
「その3週間で何をするの?」
「今の契約の案件の進捗が遅れているのは、顧客の担当者が多忙だったんです。なので3週間延ばして、このスケジュールでやりたいんです。」
「(だから、どうやって?を聞いているんだってば!)」

「あのね、3週間延ばしてでもやりきりたいんでしょ?」
「はい。そうです。」
「そうなのなら、どうやって3週間で片を付けるのか、それを教えてくださいな。」
「このスケジュールでやります。」
「そうなんだ。それでどうしてできるの?」
「この週と次の週の前半で2回打ち合わせをしてもらって、仕様を確定するんです。」
「それで?」
「それで仕様書を完成させて、最終レビューします。」
「教えて欲しいんだけど、このスケジュールは顧客に話をした?」
「いいえ。」
「今のね、契約の案件でさ、担当者が多忙でほとんど時間を貰えていないんでしょ?」
「そうなんですよー。困っています。」
「あのね、今ほとんど時間を貰えていないのに、なんで3週間伸ばしたら完成できるの?」
「だからこのスケジュールで。」
「(だ・か・ら、根拠も何もないじゃないの?)」

「あのね、今の契約では担当者に時間をほとんどもらえていないんですよね?」
「はい、そうです。」
「3週間の過ごし方は作ったわけだ。」
「これです。」
「担当者にも、その筋書きに乗ってもらわないと終わらないよね。」
「そうですね。協力してもらわないと出来ません。」
「でね、協力してもらわなかったらどうするの?」
「完成しません。」
「完成しなかったらどうなるの?」
「次工程に進めないので、サービスインの時期に影響します。」
「そうしたらさ、そういうリスクがあるんだと担当者と会話しないと。会話した?」
「いえ、この案はまだ話していません。」
「メールも?」
「はい。」

「あともうひとつ説明して欲しいコトがあるんだけど。」
「はい。」
「なんでそのスケジュールで終わるの?作業量的な意味で。」
「あ、それは、このWBSの未完になっている作業がこれだけあるからです。」
「そうなんだ。でさ、作業時間はどのくらいで見積もっているの?」
「それは担当者が回答してくれれば、あとは仕様に落とすだけなので。WBSごとでバラバラですけけど。作業日で足すと10日くらいですが、実作業は数時間のWBSもあるので。」
「じゃあ、そこはさっきのスケジュールと合わせてみても大丈夫なんだね。」
「そうだと思います。」
「あのねー。その回答じゃさっきのスケジュールの信ぴょう性がなくなっちゃうんだけど。」
「残工数を積み上げて、それと担当者との打ち合わせと指摘反映作業を組んだんじゃないの?」
「えっと……。」
「(おいおいなんだよ。そうです、って言えよ。頼むから。)」

「こっち側の残作業の見積もりもスケジュールも整合性は取れているけれど、これ、実際に回せるの?」
「今のエンジニアがいるので大丈夫です。」
「そうじゃなくて。」
「なんですか。」
「だってさ、顧客の担当者からあまり時間を貰えていないんでしょ?それをどう確保するの?」
「だからあのスケジュールで。」
「どう見ても、圧倒的に意思疎通できていなかったでしょう?でも終わらしたいんでしょう?だったら、なんとかして会いに行かないと、って思うんだけど。それでさ、時間を貰えないということはさ、作業が終わらなかったら最終的に次工程以降に影響して顧客の担当も困っちゃうことになるんじゃないのかな?それを伝えることをしないと。」
「なら、こういうケースでどういった対処をしたらいいかナレッジを持っていませんか」


顧客の都合とはいえ、終わらなくて見積もりをするに至る経緯はどうにもいけない。ワタシだったら終わらすためにいろいろと手を尽くすことを考える、と思うんですが。でもね、それって先方があって、じゃないですか。先方や先方の環境、先方のレポートラインとか情報を知っているから手を考えられる。そこをすっ飛ばして「ナレッジを持っていませんか。」ということは自分で何も考えていないと一緒だと思うんですよ。


プロジェクトの問題はプロジェクトが主体的にならないと解決しないんです。決して第三者がどうこう言ったからと言って解決することは絶対にない。第三者が言ったことをプロジェクトの個別の事情とゴールの設定を考えてどうするか、どこに落とし込むかを決めて、自分で行動しないと解決しないんです。仮にナレッジがあったらどうしたんだろうね。それをそのまま試してみたのかな?そんなことで解決する程度の問題じゃないよ、と言いたいけど。


あと、このケースでは工程を伸ばしてまでクローズさせる意思がどうも感じられなかった。それは、想定シナリオが杜撰だったから。別に顧客の担当者の問題を差し置いても、作業を見積もりして、シナリオを作って、どうやって期間内に収めるのか、どういうマイルストーンを設定しないとスケジュールがずれてしまうのか、考えないといけないんだよ。