駆け引きとか交渉とかの前に


顧客へ出す資料のレビューするということで一緒に出てとお願いされたのでいそいそと会議室に入り、出席者が揃うと大きなレベル感の工程表をスライドに映して資料の説明を始めるのはいいのだけれど……。


幾ら資料に書かれている情報を理解しようとしても「なるほど!」とか「コレを決めたいのね。」とかがわからないんです。ううん、ボケが進んだのかしら。スライドに描かれているのは工程表、スケジュールの案なのですが。


工程表と言えば、複数の用途別のシステム環境をある工程のタイミングでマージしたり、扱いを切り替えたりすることはよく使う手段です。具体的な例で言えば、商用環境で試験を重ねてきて移行のタイミングでNWを切り替えるとか、開発環境で結合試験まで完了させて、本番環境にリリースして総合試験をするとか。そういった工程計画は、顧客のお作法とかSIerの手法やNWの関係などの環境制約とかでどのように本番のサービスとして提供してくのかをプロジェクトごとに合意しながら決めていくものです。


先のスライドにはそうした環境の利用が書かれているのですが、実際に説明してくれていることは「なぜそうなったか。」と割と大事なことを話しているように聞こえます。「顧客がー!」とかどうとか。ワタシの聞き間違いでなければ……。


その顧客は、「アプリケーションはYY年MM月から利用したいし、これを実現できる提案を持ってきて欲しい!!」とおっしゃいていると。なので、それを実現するには何時ものやり方だと絶対に実現できないのでスライドの工程表の案を作った、と。


ところで、その納期厳守と言っている裏には顧客に相当な理由があると思うんです。で、だいたい、顧客が絶対守ってほしいという場合、その守ってほしいとか実現して欲しいと言っているのは顧客の上司が言っているか、その顧客が上司に「やります。」とコミットメントしている場合が多いです。


つまり、顧客の立場からいえば、今その顧客の立場で一番大事なことは約束してしまったことを実現できるSIerを探すことなんですね。であるとき、何が起きると思いますか。


プロジェクトの成功は、QCD、Quality/Cost/Deliveryの3つがオーバーランしないことです。先のケースでは、Deliveryを守って欲しいと言う一方、「顧客が品質は最低限でいいから。」と言っているとスライドを説明するSEが言っています。さてこうした切羽詰まった顧客が言っていることをあなたはどこまで信用しますか。


ワタシなら「全く信用しない。」です。今、顧客は上司とコミットメントをしてしまったことに対してそれを実現するSierを探しています。そして、言い方は悪いですが品質は後回しでいいから納期優先で、と言う甘い言葉でSIerに納期に間に合うと言わせようとしている、とまで勘ぐります。本当に品質は後回しで別に予算もつけてくれて、解決に必要な時間までつけてくれるというなら、それこそスケジュールを鼻から品質を確保できるスケジュールでやればいいんです。


でもそれをやらないということは、裏事情があるからに違いないと最大限に警戒しなければならないところです。そういう状況になったら、そのシステムで扱う単位、例えば、部品とか製品とか商取引とかから「特性」を見つけて、それを間違ったらどうなるかを考えるといいです。お金を扱うのに間違えたらどうなるか。サプライチェーンで扱う部品の数量を間違ったらどうなるか。


結局、始めてしまったら「納期は死守、品質もね。」と言われるのが落ちです。


資料がディスカッションのためのたたき台の案としても、そうした先方の裏読みはしたうえで自分たちのの資料を作り込まないと顧客の罠に嵌るかもしれません。もしかして、その顧客はとても良い人かもしれないけれど、それは偶々そうだったというおとぎ話のようなものです。それより切羽詰まっているのだから何かあると思いつつ、自分達のスライドで子細を詰めていきたい、やることのバウンダリーを決めていきたいなどなどの自分たちのロジックを逆に詰め込んで顧客を自分たちの土俵に引っ張り出さないと後で痛い目に合うこと請け合いです。


100%顧客が言うことは信用してはいけないです。顧客だって交渉のプロです。うかうかしていると向こうの土俵に上げられて名誉ある撤退もできなくなります。