なぜ当社は受注できないのか −見積もり精度の考察−
当社と言ってもワタシの属する組織のことではありませんが、読み手のあなたが属する組織の話かもしれません。いや、ワタシがあなたの属する組織の受注情報なんて知るすべはないのですが。
対象とするビジネス
提案型のビジネスを手掛けている、つまり、人だしの派遣に近しいビジネスの領域には無縁の話になります。RFPに対する提案、入札などのビジネス形態を想定しています。
この提案型のビジネスが対象にするマーケットは、契約の透明性や正当性の観点から複数の応札による競争が一般的になってきています。このタイプのビジネスでは、発注者側は、RFIで情報提供を呼びかけ、入札希望を持つ受注候補者に応札させるべくRFPを配付し、提案又は入札をさせることになります。
発注者側のメリット
同一条件下での提案を都合の良いタイミングで得られること、提案を一律に並べて優劣を評価できること並びに競争下での提案になるので応札する価格が低くなることが期待できることです。
受注者のメリット
提案の採用、又は、落札した場合、それまで受注者側として契約が無いホワイトスペースをその受注で埋めることができるのでビジネス拡大の可能性があることです。
受注者側の課題
受注者側は、提案型のビジネスでは常に競争下に置かれるため、受注率が低いと提案コストばかり掛かり組織を維持することが難しくなり、結果的にそのビジネスを継続するか撤退するかの判断をしなければならなくなることが考えられます。
こうした受注者側が提案にあたりどのような課題を抱えているかを考えてみます。
受注者側の課題:提案コスト
提案するための見積もりに掛かるコストはタダではありません。受注するまでは受注者側が負担し、受注後契約する費用で回収する算段を立てます。
ただ、提案する価格、入札に応じる価格は他社との競争下にあるために、杓子定規に提案費用を盛り込むかどうかはその提案の優劣の状態で判断されるか、若しくは、当初から提案する価格に提案に掛かるコストを含めずに応札するいづれかです。
現実問題としては、後者の方が多いのではないか、と思われる理由は、提案コストを計画して提案活動をしていないと思われるからです。
受注者側の課題:提案価格の精度
提案価格の精度とは、提案する側の受注候補者が採用されるための観点で観たときの「値付け」にどれだけ近いか、という課題です。
通常、発注者の予算は明示されませんから、RFPなどから応札者が求める要求を提供サイドが実現できるソリューションを建てつけて値付けをすることになります。つまり、この提案する価格がいかに発注者側の予算に近づけられるかが精度として現れます。
受注者側の課題:見積もり担当者の精度
プライスリストがあり、数量や形状を選択するだけで提案に応じるコスト、つまり原価が算出できるのであれば、機械的に導出されるために見積もり担当の経験や知識に左右されることがなくなるため、提案者側の内部コストの算出に関する価格の振れ幅はゼロになります。
ところが、プライスリストなどが無く、提案の都度、提案のための設計や積算をする場合、それを見積もる見積もり担当者のスキルレベルにより、算出される費用は差異が生じることになります。
差異を産む要因には、RFPを読み発注者側が期待している仕様、規模などの充足性の他、RFPに記載されている要求事項の矛盾や曖昧に気付くかどうかなどを含めたリスクを識別するスキルが上げられます。
受注者側の課題:価格の競争
当然ですが、RFPや入札であれば競争が前提となるのでいくら受注者側が適正な費用による価格を設定しても競合相手が安価な価格設定をして応札していれば、他者が採用されるという結果になります。
これは、いくら精度の良いコスト見積もりをして、適正な価格設定をしても、競争下に置かれるために他者の価格動向による機会損失の要素が排除できない、ということを物語っています。
受注者側の課題:価格の調整
精度の高いコスト算出、適正な価格をしても競争下に置かれる環境であるとするならば、提示する価格は何らかの調整をされる必要があることになります。それは応札し、そのビジネスを獲るというビジネス上の目的があるからです。
そのため、適正な価格はビジネスの観点から価格を調整された価格に変更されることになります。これは、狙い通りに受注したあとのプロジェクトに対して、受注した価格で遂行を要求することがあることを示唆しています。
見積もり精度に対する課題
上記の受注者側の課題には、定量的な要因より定性的な要因、若しくは、コントロールできない課題、例えば、競合相手の値付け、などがあり、一見、手の付けようのない課題のように思えますが、応札ごとに課題ごとの諸元を記録することで一定の傾向が導き出せるのであるとすると、受注確度を向上する手立て、ロジックを導き出せる可能性はあると思われます。
ただ、先の競合相手の情報などは推察に大きく依存するために仮説の上であること、その情報も伝聞でしか得られない情報であることを忘れて無防備に信用してしまうことがないことを常に意識しなければ不利な情報下で仮説となってしまうので注意が必要と思われます。