先輩、面倒臭い仕事はどういう気持ちで向かえばいいのですか

「あーぁ、これをやらないといけない…」
「どうかしたの」
「あっ、声にでてましたか。例の課題なんですが関係部署とのすり合わせがあって」
「それ、わたしが出られなかった打ち合わせね。どうなったのか教えてもらっていいかしら」
「そうですね、今がいいですよね。あと10分だけ待ってもらっていいですか」
「そうね、なら1時間後にしましょう」

「えっと、課題のすり合わせの件ですが、たたき台を持って行ったら大筋OKでしたが最後になってコメントがついて、それをどうしようかと」
「それで唸っていたのね」
「唸ってなんていませんよ。気合を入れていたんです。そうです、キ・ア・イです」
「そうなの、ならいいのだけれど」
「えぇ、気にしないでください」
「それでコメントがついたのね。さっきの気合の入れ方だと大変そうだけど大丈夫かしら」
「なんとも言えませんが、頑張るしかないんで」
「そういう精神力で頑張りますっていうのどうかしら」

「気合も大事ですから」
「それで何に気合を入れるつもりなの」
「障害時対応の設計です」
「そうね。それで障害時対応の設計にどんな影響があるコメントがついたのかしら」
「落ちませんよね、って言われて」
「いいのよ、落としちゃいなさいよ」
「えぇぇえ、ダウンさせていいんですかー」
「だって、そんな要件ないもの」
「あっ、そういえばそうですね。忘れてました」
「でも、ダウンしたらダウンしたで回復時のリランの設計をね、考慮しておかないと」
「それは当然として」
「だったら、縮退させるけどダウンさせないように設計するという手もあるわね」
「やっぱりいくつか方式を検討しないといけないですね…」
「専門家ですから」
「方式は過去事例も参考になるのでナレッジから引っ張ってくればいいんですがそれを要件と突き合わせて案を決めていかないといけないのが面倒で」
「やらないといけないことはイメージできているのね」

「逆なんです。イメージできているから面倒に感じているんです」
「そうなのね。なら心配いらないわね」
「はい、そうなんですが」
「どうしたの。やることわかっているのでしょう」
「面倒くさいなぁと思って。こんなことを先輩に言うのはどうかと思いますが」
「わたしは別に構わないけれど」

「すみません」
「わたしだって、少し面倒な仕事ねと思うこともあるのよ。でも、そう思ったときはね」
「そう思ったときは」
「見通しがついたわね、って思うようにしているの」
「見通しですか」
「そう、仕事の先が見えた、って。だからね、あなたのように気合いを入れるのよ」
「先輩も気合い入れたりするんですか」
「するわよ、わたしだって」
「へー、同じなんですねー。えへへ」

「嬉しいことがあったのかしら」
「また顔に出てました、あーぁ」
「モヤモヤしていた課題だけれど、どうしたらアウトプットが作れるか手順まで見えてくるとそれに掛かる時間が推測できてしまうからその掛かる時間分の作業をしないと、と思っちゃうでしょう」
「そうなんです、これから1日とか3日とかそれをやるかと思うと、もう1日や3日やったあとの姿まで想像できちゃって」
「でもまだ何もできていないわよ」
「それを言わないでください。そのギャップで疲れた気がするんですから」

「ほら、スポーツで相手が反則をして10分退場とかあるじゃない。そのとき得点しやすいのでしょう」
「パワープレイのことですか」
「そう、わたしはそのパワープレイの時間だと思うようにしているのよ」
「へー、そんな風に思って仕事をしているんですね」
「だって、仕事をひとつ一つ片付けていけば必ず終わるのよ。それもこうやれば終わるとわかっているのだから頑張ろうという気持ちになるじゃない」
「そうなんですね、義務感じゃなくて自分のターンだと思って仕事をしているんですね。先輩、相変わらず面白いです」