後輩に挑戦して欲しいテーマを上手に出してみよう
「不思議ですね、先輩が研修の講師で読書会のメンバ募集をされたから仕事は抜きでの知り合いだったのに、まさか同じプロジェクトになるなんて」
「そうね、読書会でのお友達と一緒に仕事をするとは思わなかったわ」
「すごく嬉しいんです、一緒に仕事をすることになって」
「あの読書会には前に同じプロジェクトだった人が半分くらいいるのよ。それぞれプロジェクトは違うけれど」
「そうなんですか。でもわたしは逆のケースじゃないですか」
「そういえばそうね」
「ファーストケースですね。えへへ」
「あなた、考えていることすぐに顔にでるわね」
「えっそうですか。つい嬉しくて」
「よかったわね」
「でも、元部署のマネージャから異動のお話を聞いたときには異動先しか情報がなかったので、誰か知り合いがいるかなぁとちょっと不安もあったんです」
「もう話してもいいのかしら。わたしは知っていたのよ」
「えええっ、いつ頃ですか。内示は公示の1週間前らしいからそれより前ですか」
「うふふ、聞かないほうがいいと思うけれど」
「教えてくださいっ」
「あなたを引き抜くの、大変だったのよ。半年くらい前から色々動いていたの」
「は、半年前…」
「調整を始めたのはね。詰めたのはここ決まるひと月前くらいだったかしら」
「ひと月前だったら前回の読書会のときには知っていたんですよね。教えてくれないなんてひどいじゃないですか」
「なに言っているの、人事はひとごとなんだから言えるわけないじゃないの。異動の公示で確証を得るみたいなものなんだから」
「そうなんですか…そうなんでしょうけれど釈然としない…」
「ところでどうしてわたしを異動させようとしたんですか」
「なんでかしらね、読書会で活発だったから…それとも活発すぎて心配になったからかしら」
「ううう、誤魔化されている気がします」
「わたしは人を必要としていた。あるときにあなたを思い出した。もしかしたら読書会のときに気づかないところでわたし自身がそう思ったのかもしれない。何れにしても必要としたのよ、あなたを」
「それで今一緒に仕事をしているのですがどうですか」
「頑張っているからいいんじゃないのかしら」
「そんなアバウト過ぎます。もう少し具体的に言ってもいいいんですよ」
「あなた、それをこれから聞く覚悟があるのかしら」
「ちょっと待ってください、瞬間的に重力が3倍くらいになりましたよ。なにを言うつもりなんですか」
「ご要望にお応えしようかしら、と」
「とても怖いんですが。お伺いするのが」
「わたしとしては別に大したことではないと思うのだけれどご要望だもの」
「……はい、どうぞ」
「今はプロジェクトのいちメンバだから担当の仕事を任されているわよね」
「はい」
「いちメンバだからといって自分の担当だけを見ていてもいいけれど、せっかくだから常にプロジェクト全体を見る視点を持っておいたらどうかしら」
「プロジェクト全体を見る視点、ですか。それはどうすればいいのですか」
「それは自分で探してごらんなさい」
「わたし言いました。具体的にって」
「あら、そうだったかしら。でも、わたしも具体的に話すなんて一言も言っていないわよ」
「そんなことを言わないでください」
「冗談よ」
「わたしのプロジェクトでは開示できる情報レベルに応じてメンバに公開しているのは知ってるわよね」
「はい」
「どのくらいプロジェクトの情報は見たの」
「すみません、担当の範囲でしかみていません」
「いいえ、怒っているのではないのよ。現状を認識するために尋ねているだけだから」
「そうなんですか」
「あなたは社員だから厳秘以外は全て閲覧できるのよ」
「アクセス権限があるのですね」
「そう。それで見て欲しいのはプロジェクトの全体が見渡せる資料を見て感じて欲しいの」
「見て感じる、ですか」
「そう。例えばプロジェクト全体のマスタースケジュール見ながら契約書を見てみる。なぜこのプロジェクトはこんなスケジュールになっているのだろう。工程の長さの理由は、とか」
「わたしプロジェクトマネージャじゃないのでわからないと思います」
「いいのよ、これから勉強していけば。だから感じてみて、なのよ」
「どのくらいやればいいのですか」
「何か気づくまでいろいろ資料を見てみたら。仕事をしているときに何かそれまでに見たことが紐づくかもしれないから」
「情報と情報を記憶で結びつけるみたいにですか」
「そうね、背景がわかったり、プロジェクトの方針がしっくりしたりするかも」
「なんとはなくわかったようなわからないような」
「今までやってきていないならわからなくてもいいのよ。新しいことをやってみましょう、と言っているのだから」
「そうですね、何か気づいたことがあったらお話聞いてくださいね」