「ちょっと聞いてください」
「ちょっと待って、このメール出したら…ではよろしくお願いいたします…と。それで」
「さっき、上司に呼ばれて」
「やらかしたか」
「まだやってません」
「やるのか」
「先のことはわかりません。やるかもしれませんけど」
「よくない話なんだろう。フラグでも立ったか」
「そんなところです」
「…」
「それで、あるプロジェクトの応援に行くことになりました」
「…」
「しばらくお昼は一緒に行けなくなりました」
「そうか」
「そうです」
「それで」
「あまりいい感じのプロジェクトじゃないみたいです」
「だよなぁ」
「ですよね…。それでどうしましょう」
「いつものようにやるしかないんじゃない」
「すばらく様子見してきます」
「そんな余裕があるといいな」
「こんにちは」
「あれ以来だな。どう、あっちは」
「今晩、空いてますか」
「空いているの前提だな」
「そんなことありません。よく課外活動されていることはよーく知っているので」
「今日は予定ないよ」
「じゃあ、早いけど行きましょう」
「(これは相当きてるな)」
「何か言いました」
「いや、何も」
「それで」
「エンジニアの仕事ってこんなに属人化しているのかと呆れるというか」
「仕事が属人化とは」
「作業を分担するじゃないですか。みんな終わったというからレビューするんですよ」
「アーキテクトだもんな、レビューくらいするよな」
「そうなんですけど、終わったの状態がみんなバラバラなんですよ。オカシイですよね。完了した状態なんて1つしかないはずなのに」
「ああ、それで属人化か。やっと繋がった」
「どうします」
「俺がするの」
「そうです。どうにかしてください」
「そうだなぁ、全くチームの状況も文化もわからないからな。でも、作業の完了を揃えたいんだろう」
「そうです」
「単純といえば単純。だが、難しい」
「いいから答えてください」
「もう、俺ならどうするかわかっているんじゃないのか」
「いいんです。私が言って聞いてもらえないときは先輩の名前だすので」
「風評被害が起きそうだな。言うのやめよう」
「そこはなんとか」
「エンジニアはさ、配属もプロジェクトのアサインも担当するロールも作業もどれを取っても同じエンジニアはいないんだよ」
「…」
「ここが大事なところ」
「はい」
「一人ひとり持っている経験知が違う。いいかい。違う。仕事の仕方は自分で覚えてきたんだよ。生産ラインじゃないので同じ手順でやるわけじゃない。自分で覚えた仕事の仕方でずっとやる。特に、覚えた仕事の最初のやり方が下敷きになる」
「…」
「覚える元はアサイメントされたプロジェクトのプロマネのやり方だけどさ、そのプロマネのやり方だって同じように経験的に覚えたものだ。だから、それを今のプロジェクトでリセットしなければチームメンバの仕事の仕方を揃えるのは無理なんだよ」
「無理だなんて」
「でもさ、チームの仕事の仕方、仕事の終わりを決めて、それ以外は認めなければいい。ただ、仕事の終わり、あれだ、完了の定義をメンバ全員で決めることと決めたルールを守らないとチームはそのメンバを守らないと宣言すればいい」
「あ、完了の定義ですか。あー言われてみればそうですね。なるほど」
「それを忘れるくらいなプロジェクトだと言うことだ」
「すみません」
「そんな状態だから難しいと言っただけ」
「いや、難しくないです。思い出せたので。やります」
「へぇ、勇ましい」
「これ飲んだら帰りましょう」
「それはそれと守らなかったらどうするんですか」
「ずっとリジェクトでいいじゃん」
「進捗困りますよね」
「でもリジェクトするの」
「それでも」
「俺のところに連れてこい」
「お願いしますね」

- 作者: Jonathan Rasmusson,西村直人,角谷信太郎,近藤修平,角掛拓未
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