先輩、なぜカンバンを使うんですか

「おはようございます。何かありましたか、朝からカンバン眺めているようですが」
「あら、おはようございます。今日は早いわね」
「いつも始業時間ギリギリってわけじゃないんですよ」
「もしかしたら、このチケットかしら」
「うっ、そ、そんなことないですよ…」
「そうならいいのだけれど。朝会でわかるけれどね」
「もう、やめてください。締め切りのプレッシャーあるんですから」
「では詳しく朝会で聞かせてね」

「えっと、次は…楽しみだわ。どうぞ」
「いじわるなんだから…」
「何か」
「いえ、なんでもないです」
「この朝会は短い時間でやることに意味が有る、その代わり毎日開くといつも言っているとおりよ。さぁ、どうぞ」
「実績ですが、昨日完了予定の作業は課題があって完了しませんでした。今日の予定は新しいチケットに手をつけます。課題は昨日の作業の課題を相談させてください」
「課題解決には誰が必要かしら」
「PMと技術リーダに相談できれば大丈夫だと思います」
「朝会の後すぐに話を聞かせてもらえることできる」
「大丈夫です」

「朝会で課題検討を朝会のあとにセットされましたけど、優先順位が高かったでしたっけ」
「そうでもなかったけれど、午後とかにしてまうとあなた、新しいチケットに手を出していたでしょう」
「そういう予定でしたから」
「それ、抱えるチケットが増えると一つも終わらなくなっちゃうわよ」
「どういうことですか」
「あなたというリソースは1つしかないのよ。だから二つチケットを握ったって処理が進むチケットは一つだけなの」
「ええっと、work in progressでしたっけ」
「そう、WIPね」
「対応中の作業は一つに、でしたね」
「そうよ、わかっているじゃない」
「すみません、課題が手に余って考える余裕がなくて…」
「みんなの状況を掴むのもわたしのお仕事だからそれは気にしなくていいのよ。このプロジェクトのどこかでは少しはできるようになってもらえると嬉しいけれど」

「朝会の前にカンバンを見ていたのは何をしていたのですか」
「何していたのかしら。なんとなく見ていただけだけど」
「本当は目的があって見ていたんですよね。教えてくださいよ」
「そうねぇ、昨日終わっているハズのチケットがDoneになっていないとか、課題のチケットと絡んでいるチケットの見通しとかね」
「やっぱりわたしの進捗が遅いのが気になっていたんですね…」
「気になっているのはそうだけれど、別にあなただからじゃないわよ。他のメンバだって気になるチケットはあったから」
「そう言えば、どうしてカンバンで進捗管理しているんですか」
「カンバンで進捗管理をしているつもりはないわ」
「またまた、どう見たって進捗管理じゃないですか、カンバンは」
進捗管理は別でやっているわよ。カンバンはどちらかというとみんなの作業の可視化のためにやっているの」

「わたしたちの作業の可視化のためってどういうことですか」
「そのままよ。あなたの作業状況を他のメンバに見せるためよ」
「見られているのは気になっちゃいます」
「別に一緒のプロジェクトルームで仕事をしているんだから何も変わらないわよ」
「成績を貼られているみたいで」
「成績より回答用紙の方がぴったりだと思うわ」
「そっちの方が嫌です」
「どうして嫌なの」

「考えていることが丸裸になっているように思えて」
「そうねぇ、でも厳密には考えて思考した後の1日のダンプでしかないけれど」
「それはそうなんですが」
「でもね、カンバンを使うことで誰が作業で困りごとを抱えているかわかるでしょう。あなたの課題だってチケットに別の付箋を付け足して課題がぶら下がっていたじゃない。あれ、リーダさんも気にしていたのよ」
「みんなに気にかけてさせてしまっていたんですね…」
「そうじゃないのよ。逆なの。あなたが付箋を付け足してくれていたから周りも一緒に解決しようと思ってくれていたのよ。それってわたしがカンバンを使う大きな理由の一つなの」
「そうなんですか」
「そうよ、チケット単位の作業の可視化もあるけれど進捗を可視化することで進捗上の課題を共有できるからみんなでお互いに助け合うチームのカルチャーを育てられるのよ」

「みんなで助け合う…」
「だってプロジェクトのゴールをみんなで目指さないといけないわけだし、だったら助け合った方がいいでしょう」
「前のプロジェクトより雰囲気がいいのは確かですね」
「別に仲良しクラブを作るつもりはないの。プロジェクトの目的を達成するためにできることをしたいの」
「PM目線ですね」
「最後はお客さまのためですよ」
「ギスギスしたプロジェクトよりは全然いいです。カンバンもそんな風に使えるんですね」