プロジェクトマネージャがメンバへの期待を説明できないならコミュニケーションギャップを生じるものです

「あの、お忙しいところ済みませんが5分時間をいただけませんか。」
「いいけど。ほんとに5分?15分、いや、30分は掛かるんじゃないの?」
「あ、そうかもしれません。すみません。」
「いいよ、丁度、仕事のが一つ終わったところだから。」


そうして気軽にオープンスペースで話せる雰囲気なのかどうか相談相手が話したい内容はわからなかったけれど、先を歩いて空いている会議室に入っていったので、多分、他の人には聞かれたくない話なのだろうな、と思いながらついて行って、ドアを閉めて開口一番にプロジェクトマネージャが口を開く。


初めてプロジェクトマネージャを担っているプロジェクトマネージャでは長いので若葉マークから「若葉ちゃん」と呼ぶことにしよう。


その若葉ちゃんが開口一番、
「Aさんと一緒に仕事をしているんですけど、どうもコミュニケーションがうまく取れないんです。Aさんのことについて上司に相談したら『元上司に聞いた方がいいよ。』って言われたのでお時間を貰いました。すみません。」
「なんだか、たらい回しっぽいけど。確かにAさんとは10年以上一緒に働いていたし、部下だったよ。」
「なら、Aさんとどうやったらコミュニケーションが上手に取れますか……。」
「随分と単刀直入だけど、それは切羽詰まっているという裏返しなのかな。」
「切羽詰まっているというか、そこまでのつもりはないんですけど……。」
「どんな感じなの?Aさんと若葉ちゃんは。」


仕事にムラがあるんです!!
「Aさんに複数の機能の担当をお願いするんですが、こう、XとYがあるとXは広く、深く考慮して設計をしてくれるんですが、Yは、こう、あっさりと言うかサッパリというかアウトプットのレベルにムラがあるんです。」
「ふうん。そうなんだ。」
「で、前任のとき、どうでしたか。そんな感じでしたか。そのときはどうしましたか。」
「大分忘れちゃったけど、確かにビシッとやってくれるところもあるし、言い方が悪いかもしれないけれど手を抜いたようにしか見えないアウトプットだった時もあったかもしれないなぁ。そんなとき、どうしたかなぁ。」
「思い出してくださいよ。わたしは大変なんですから。」
「いやいや、もう、ワタシの部下じゃないしー。」
「ヒドイじゃないですか。元部下なのに!!」
「だから元、でしょ。」


「確かにね、仕事にムラが出ちゃう人は割といると思うんだけど。どうかな。他のメンバは?」
「そうですね、Aさんほど極端ではないですけれど、タスクごとで多少のばらつきはあると思います。」
「そうなんだね。」
「はい。」
「じゃあ、Aさんは確かにばらつきがあるけれど、Aさんばかりをやり過ぎると逆に他のメンバのばらつきがおざなりになってしまうかも。」
「でも、Aさんが……。」


ムラの原因はなに?
「確かにね。Aさんの件は個別に対応が必要なこともあるかも。人と人との関係だから相手の性格を知っておくことは大切な一つだと思うのでそこに関心を持つのは良いと思うよ。それでAさんなんだけど、結構、合理的な考え方をしていると思うんだけどそう思わない?」
「ううんっと、そうかも、さっきのXのようなテーマだといろいろ考えて案を出してくれたりします。」
「でさ、段取りとか最短ルートを選んでいるように感じない?」
「あぁそうかも。進め方で揉めたこともありました。」
「どんなふうに?」
「タスクを依頼するときには、もっと具体的に進め方を示して欲しい、とか。」
「それじゃ、若葉ちゃんは具体的に『こうして!』って言っていないんだ。」
「だって、いろいろあるし……。」
「そこだね。ギャップがあるのは。」
「そこですか。」
「だって、Aさんは合理的に進めたい性格の人だからねぇ。Aさんから見たら若葉ちゃんは不確定要素が多く見えているんじゃないかな。」


自分でできないなら……
「じゃあ、ビシバシと決めてから出した方がいいんですか。」
「それがいいのかもしれないけれど、でも、出来る?」
「いつもは無理かも……。」
「ならさ、Aさんはやるときはやる人なんでしょ?」
「はい。」
「ならさ、Aさんに相談する形をとって、Aさんにそこから決めてもらうようにしたら?」
「???」
「Aさんに裁量というか、ロールを渡してしまえば?」
プロマネの?」
「いや、それは違うよ。タスクの事前調整や仕様決めの頭から、と言う範囲で。」
「あ!そういうことですね。こっちで決められないなら決めるための案を出してもらうということですね。」
「そうすればさ、Aさんが若葉ちゃんからもにょもにょした感じでタスクを渡されて不確定要素のまま受け取ることがなくなるじゃない?」
「こっちも決められないというか手が回らないところを助けてもらうえるし……。」
「その上、ギャップも解消するかもしれない。」
「かもしれない。」
「これはね、Aさんばかりにやらなくてもいいと思うよ。メンバにタスクが自分のタスクだ、と思わせるには当事者になってもらうのがいいと思っているんだけれど、自分で考えるのは始めからがいいんだよ。だから、タスクの事前調整や仕様決めから渡すのがいいんだ。もちろん、途中途中で確認は必要だけれど。」
「はい。やってみます。」
「試してみてね。」