地図を描けないシステムエンジニア

「聞いてくださいよ。」
「どうしたん。」
「技術支援のプロジェクト、まったくわけがわからないんですよ。」
「どのプロジェクト。」
「このプロジェクトの名前聞いたことありませんか。」
「あ、聞いたことあるわ。キミも大変だねぇ。」
「私よりメンバが気の毒ですね。」
「なんかいつもより、毒気の成分が多いね。じゃあ、お昼でも一緒するか。」
「そうしてくださいよ。」
「それで。」
「例えばですね、体制表なんですが…で、おかしいでしょう。」
「そりゃ見たことが無いね、そんなプロジェクト体制。」
「あとですね、開発環境も…なんですよ。自分たちのプロジェクトなのにどうしたらいいかって聞いてくるんです。おかしいですよね。」
「まぁ、プロジェクト外部のリソースとして技術支援を依頼しているんだから、アドバイスが欲しいんだろうからね。だとしたら、自分達で考えられる選択肢を出して、でも、こう判断しているけれど技術的リスクが無いか、って聞くもんだろうねぇ。」
「そうですよね、そうでしょう。私だけ頭おかしくなったのかって思っちゃいました。その時の雰囲気は。」
「なんだろうね。」
「なんでしょうね。」
「画が書けないのかね。」
「画、ですか。」
「筋書きか。」
「あ、そういうことですか。」
「個人の資質なのか、痛い目にあった経験からかね、ワタシは筋書きが無いと不安なんだよ。」
「それは。」
「見通しが立たないから、かな。いやさ、何でも見通しが立つわけでもないことも知っているし、そう言うときの対処も知っているけどさ。」
「ちゃんと計画立てて、ってことですね。」
「今回の場合は計画立てられるものかね。」
「プロジェクトの話を聞いたところだと、普通の開発ですよ。」
「なんでかね。」
「なんででしょうね。」
「地図読める人と読めない人っているじゃん。」
「はい、聞いたことがあります。」
「それの地図が描ける人、描けない人版かね。」
「どうなんでしょうね。」
「地図はプロジェクト計画なんだけどさ。」
「それはわかります。」
「情報は持っているけど断片的でね。でも、地図、筋書きを持っていないから何を持っていて、何を持っていないかが自分自身でわからない。」
「いやいや、さすがにそれはないと思いますが。」
「そうとも言い切れないさ。SEの世代交代はここ10年で大分進んでいるんだから。」
「それとどう関係が。」
「今まではさ、地図が読める人がいたわけ。それがいなくなった。」
「定年する人ばかりじゃないんじゃないですか、地図が読める人って。若い人だっているのでは。」
「読めているように見えるだけかもしれないよ。」
「どういうことですか。」
「地図が読めない人の周りに読める人が居てサポートしていただけ。」
「それならありえますね。」
「でもレアケースでは。」
「そうだとうれしいんだけどさ。」
「そうでない、と。」
「じゃあ、今目の前にある状況はどう説明するんだい。」
「それは地図が読めない人がたまたま集まったのでは。」
「キミもワタシも一体どのくらいレスキューしてきたんだい。」
「…。」
「恐いのはさ、誰がそれでいいと集めたんだい、って方なんだよ。」
「開発チームですか。そうならアサインするのはマネージャですね。それのどこが恐いんですか。」
「そのマネージャがプロジェクトを任せるSEの力量を把握していないってことさ。地図を読める地図が読めないなんて気にしないでアサインするんだぜ。それでどれだけ地図が読めない人たちのプロジェクトが生産されるのか考えてみてよ。」
「勘弁してください。」