わたしだけがいないプロジェクトルーム

「こんにちは」
「どうしたの」
「たいしたことはないんですが暫く顔を出せそうもないので」
「あぁ、人事異動がでていたね。次はどんな仕事をするか聞いているの」
「新規に取れたプロジェクトだそうです」
「んー、じゃあプロマネやるの」
「まぁ、そうですね。初めてですよプロマネ
「それはおめでとう。うれしいねぇ」
「ありがとうございます。本人はうれしいのやら嬉しくないのやらでよくわからないのですよ」

「昨日変な夢を見たんです」
「へー、どんな」
「朝、プロジェクトルームに行ったらわたしだけいないんです」
「どんな状況設定なの」
「夢を見たわたしがよくわからないんですけどね。メンバはいるのにそれを見ているわたしが実在しない、みたいな」
幽体離脱したような感じなの」
「そうなんでしょうか。とにかく変な夢です」

「それで」
「メンバはまるでわたしが指示したように動いているんです。なんというかちょっと違うかな。自律していたのかも」
「うんうん」
「それでわたしは、誰かが歩く前にある障害物があったら先回りしてどかしたり、わざとぶつかって向きを変えたりするんです」
「なんだろう、危ない状況になる直前に回避するような感じなの」
「そうですね、そうかもしれません」
「リスクを見つけて識別できたら先回してメンバのパフォーマンスがなくならないようにしている、と」
「そうですね」
「でもさ、どうやって見つけているんだろうね。夢の中のキミはその危険を」
「どうなんでしょう、願望…でしょうか。もしかしたらプレッシャー…なのかも」
プロマネとして」
「たぶん、プロマネとして、ですね」

「異動で、初めてのプロマネで、いろいろ感じているのだろうけど今一番気にしているのはプロジェクトを阻害するリスクなのかな。それで夢に」
「はい」
「いつだったか先輩のプロジェクトマネージャが言っていたことがあったよ。プロジェクトが進む先にはマンホールが幾つもあってプロマネにはそれを見ようとすれば見ることが出来る。だけど見ようとしないとマンホールの存在に気づかない」
「日常でも歩道を歩いていて、マンホールなんて気にしないですものね」
「そう、気にしないと気づかないんだ。先輩はこう話していたよ。気づかなくても蓋が閉まっていれば結果オーライ。だけど蓋が開いていたらプロジェクトマネージャもメンバも落ちちゃう。それは自爆なんだ、って」

「それはちょっと痛そうです。でも、マンホールの蓋を開けっぱなしにした人が悪いんじゃないんですか」
「そうかもしれないし、もともと蓋なんて存在しないのかもしれない。大事なことはプロジェクトの進む方向を決めたプロジェクトマネージャが前をよく見ることなんだ、って言っていた」
「前をよく見ていないとプロマネもメンバも落ちる可能性があるということですか」
「それも自分から」
「自分からは落ちたくないですね」
「すくなくともキミはそれを気にしているんだね。今までの経験が生きそうだ」
「はい、そうありたいです。メンバだけはマンホールに落ちないようにしないと」
「いやプロマネだって落ちちゃダメだよ。メンバとみんなでマンホールがあるのか、蓋は開いていないのか確認しながらプロジェクトを進められるようになるといいね」
「もしかしたら、そうしなさいという夢だったのかしら」
「そうだね、期待してるよ」
「はい、4月1日からプロジェクトマネージャとして頑張ってきます!」