SIerで明日なくなるかもしれないビジネスをやっていると必然とアジリティになる

今の時代、エンジニアリング部門(開発でもなんでもいい)では、いまの時代に求められている不確実性に対する対応やビジネスからの変更へ対応できなければ先はない、と言われている。

そうした要求に応えられているのがWeb系やSaaS企業であり、対岸で置き去りにされているレガシーな企業がSIerであるとされている。

まあ、大枠としてはそうなんだろうと思う。

ところで、以前担当していたデリバリー部門はとてもアジリティがあった。いやそうしなければ組織として存続できないと言うプレッシャが日常的に掛けられていたと言った方がよいかもしれない。

管理部門や事業オーナからの圧の他に、組織内としても多くの課題を抱えていた。

  • 事業のポートフォリオ転換
  • 収益確保
  • プロジェクトの短納期
  • 案件獲得の打率
  • エンジニアの育成

ポートフォリオの転換は、高収益事業の見切りからソリューション提供というポートフォリの転換があった。あったにも関わらず、開発部門の体制は自分が考えるような準備はできていなかった。これに対する回答は、

  • デリバリできる体制づくり

である。モタモタしていると組織が死んでしまう(お取り潰しか吸収)。事業自体にビジネスの価値の確信があったので、自分が担当している間は、そうさせるわけにはいかない。

収益確保は、ベンチャーでいう資金繰りと同じようなものだ。その生き延びるための資金を外からか中からを問わず確保するのがマネージャの役目だ。そうでなければ、エンジニアを他部門へドナドナさせなければならない。

  • 提案強化と提供価値の向上

外の案件は提案になるし、そこで選ばれるためには価値(選ぶ理由)が必要だ。一時期、提案で(結果的にばらまいた)スライドを使わせて欲しいと言ってきたところもあるが…。提供価値はデリバリするエンジニア自身のマルチタスク(ソリューション)やロールの引き上げになる。優秀なエンジニアをつけるのだから、それに見合う価格を頂戴するために。

プロジェクトの短納期は、ソリューションとして短納期である商材を扱っていたからというのもあるが、それに見合う契約条項、プロジェクト管理を必要とした。ただ、これでは組織のサイズからビジネスを維持するのは無理がある(息をする間もない)ため、案件の大型化に移行した。そうすると新たな問題も出てくる。

短期のプロジェクトは結局、短いマイルストーンごとに契約した成果をリリースしなければならない。その上、ポートフォリのソリューションは実現したい課題解決に対応できるかプロジェクト頭からフィージビリティスタディをしておかなければ危なくて仕方がない。結局、提案時にあらかた検証をしておく(あとで費用に入れて回収する腹づもり)するかプロジェクト内検証を織り込む他ない。どちらがリスクをテイクできるかは察しの通りだが、それをやりすぎるとそのコストを回収できなかったときの説明がつかない(結果的にはしたのだが)ため、エンジニアの稼働状況で対応が変わるという状況になる。まあ、いい加減なんだ、人は。短納期は、確実に、必要な品質を、上流の段階から顧客を巻き込んで(ただ承認を取るのではなく、使うかの判断を含めて)やらなければならない。なにせ短期なので数日の判断の間違いはあとあと3倍になって返ってくる(実感として)。

プロジェクトの打率は、低い。低かった。それだけコンペが多いマーケットであったということでもあるし、リスク回避でサブコンに回ったらプライムが負けたということもままあった。打率(案件成約)だけで見れば、J2落ちどころか廃部になりかねない。そこは収益に繋がるのであるが、それの対策は、

  • 案件のパイプラインの開発と維持
  • 安定したデリバリ(実績)
  • 背後にあるエンジニアの質の高さ

だろうか。結局は価格で判断されるのは顧客の大小に関わらない。金と政治である。

今ならエンジニアリングマネージャとか、1on1とかエンジニアの育成とかOKRとか手法が色々と取り上げられ、注目を浴びているが実務ではそんな言葉が広まる前から似たようなことをやってきた。ただ、名前付けをしていなかっただけである。自分として目標管理で十分だと思っているのは、計画づくりに時間を取り会話することと、週次のレポートで直接フォローしてたことが背景にある。結局、運用なのである。OKRも目標を可視化してこまめにフォローしているだけに過ぎない。道具はある。それをどう使うかはマネージャ次第だし、運用がへぼかったらエンジニアはやり方を変えようというべきである。言えなければ、承諾したのと一緒だ。言えず、不満のあるエンジニアや辞めるのだ。結果、OKRや1on1を導入するのだろうが、運用ができないマネージャや調整を試みないエンジニアは新しい手法が基盤として整備されても踊れない。

SIerであっても明日死ぬかもしれないとビジネスをやっていると勝手にアジリティが高まる。そういう背景がないSIerはジワリと死期が近づくだけである。