コードは下から駆け登り、プロマネは上から降りていく

「今日のお昼は何食べましょうね」
「もうちょっと待ってて欲しいんだけど…」
「それ、今片付けないと午後に困るんですか」
「キリが悪いだけ」
「じゃあ、行きましょうよ。出遅れると混んじゃいますよ」
「でもなぁ」
「ほら、今こうしてお話ししているのだってやめちゃっているのと同じですよ」
「それもそうか。じゃあ行こうか」
「素直でいいと思いますよ」
「それで今日は」
「そうですね、久しぶりにベトナム料理とかどうですか」
「いいんじゃないの」

 

「ところで、配属された新人ちゃんがなかなか仕事を覚えなくて。メンターとしてはどうしたものかと悩んで悩んで」
「大変だ、先輩になると。まあキミが人に教える日が来るとは思いもしなかったけどさ」
「それひどくないですか、可愛い後輩が悩みを打ち明けているのに。第一先輩だってまだ私のメンターなんですよ」
「そうだよなぁ…配属されたときは期待していたんだけどなぁ」
「ちょ、それどういうことですか。今だって十分頑張っているじゃないですか」
「いやいや、こんなに元気が溢れまくっているとは思わなかったんだけだよ。こっちの方がHPを吸い取られているみたいだ」
「先輩のはいいです。イケメンに限ります」
「ははは、ならいいや。それで」
「新人ちゃんなので、ほら、テストとかコード書くところから仕事を振るじゃないですか。そこそここなしてくれるんです。いい娘です。私みたいに。ただ…」
「今なんか変なの混じってたけど気のせいかな。それでただ」
「プロジェクトの全体の進め方とかありますよね、工程とかプロセスとか。そういった仕組みづくりを理解するのが苦手みたいなんです。コード書いているときと反応もアウトプットも違うんですよ」
「まだ新人なんだろう。3年くらいは目を瞑ってあげないと」
「そうなんですが3年経ったときにしまった、となっては遅いですし。メンターですからエンジニアとして困らないようにしてあげたいんです。お姉ちゃんとして」
「そうか、3年後に困らないようにか…先まで考えられるようになった姿を見ると涙腺が緩むな。間違っていなかったんだな、俺の教え方は…よかった。ご飯も美味しいし、今日は帰るか」
「ダメすよ、どさくさに紛れて帰ろうとしちゃ。私の問題が解決していないんですから」
「そうだなぁー…その娘、作るものが見えている、いや、定義できているものを作るのは得意なんじゃないかな」
「作るものが見えているって、あ、アウトプットとか成果物が決まっているということですね。どうかな…そうかな…そうかも、そうですね。ちゃんと作ってくれますよ。だからいい娘なんですよ」
「それってさ、学校での学んできた学習方法なんだよなぁ」
「学校での学んできた学び方って」
「問題があってさ、答えに辿りつための式があってさ、で、正解がある。同じような仕事なら勉強できる子はその仕事はできるんだよ。問題はタスクでさ、答えは成果物でさ、作る手順が決まっていると、ほら、同じだろう」
「そういうことですか。へー面白いですね」
「だけどさ、プロジェクトのプロセスはそういう感じじゃないじゃん。コード書く技術知ってても役に立たない。どっちかといえば、コード書くのは小さな仕事を積み上げていくからその部品だけは知ることができるけどさ、部品を全部知らないからどう組み上げていけばいいか知らないし、組み上がったらどうなるかも知らないじゃないかな」
「えぇ、でも全体のアーキテクチャとか説明していますけど」
「多分、理解できていないよ。だって、やったことしか知識はないからさ、他の要素を聞いても想像できないんだよ。そこにプロジェクト全体みたいな世界観を持ってこられてもプロジェクト全体の仕組みがわからないじゃん。それであれこれ言われてもって」
「わかったような…わからないような」
「プロジェクトマネジメント系はさ、全体の流れを弟子のように連れ回して、プロジェクトマネジメントの中の仕事をになう存在理由を作ってあげないと。枠組みとそれを構成するマネジメントのストラクチャの中から繋がるものを一つひとつ経験させた方がいいんだよ。思い出してごらん。どうやってプロマネ覚えた」
「確かに工程の枠組みを教えてもらって、工程の中のプロセスとかそれを支える管理ビューとか切り出してもらったかも」
「だろう、それも小さなプロジェクトから始めたはずだよ。キミのレベルでもどうにか見渡せられるようにね」
「そうなんですね…コードを書くことを覚えるようなボトムアップなアプローチじゃなくて、トップダウン的な仕事の振り方をしないといけないんだ」
「そういうことさ。さあ、コンデンス入りのコーヒー飲んで仕事しようか」
「ありがとうございました」
「じゃあ何か手伝ってよ」
「そうですね、クリぼっちなら一緒にご飯食べてあげてもいいですよ」
「(ぶっ)あ…」
「あー何やっているんですか、はい、ハンカチ。しょうがない先輩ですね、全く」

 

 

Amazon Echo Dot (Newモデル)、ブラック

Amazon Echo Dot (Newモデル)、ブラック