サーバの森とオオカミと赤ずきんちゃん
あー、なんというか。エンジニアのみなさんは目の前にトラブルを差し出されると嫌と言えない性分なのか、元来、トラブル祭り大好きっ娘なのか、召喚する前に自ら迷宮の森に足を踏み入れますよね。なんでなの?
ワタシから見ればとても不思議ちゃんです。だって、トラぶらないように段取りして、ね。それも大分、時間=コストも掛けているわけです。幾ら段取りを十分したとしても、勿論ね、トラブルが起きないとか、そういった保証を得られるわけではないですけれど。例えば、自分たちのチームはバッチリでも元の環境に依存するトラップに足を取られることだってあるわけです。そうした予見を含めて取れる手段は取っておいた上で、作業に臨めばそれ以上で起きることは仕方がないかな、と思うんですが。
赤ずきんちゃん、SEリーダに頼まれてサーバの森にお使いに行く
とあるプロジェクトに赤ずきんちゃんがいました。担当はミドルウェアのエンジニアさんです。来週からの試験の前に事前に試験環境が利用出来る状態かを確認しに行くことになりました。
SEリーダ「赤ずきんちゃん、赤ずきんちゃん。今週末にサーバの森(データセンター)に行って、来週からの試験ができるような環境が揃っている状態か確認してきてほしいんだけど。」
赤ずきんちゃん「はい。了解です!」
SEリーダ「じゃあ、作業計画リストを作ってね。いつできるかな?」
赤ずきんちゃん「今日の夕方までにはできると思いますよ。」
SEリーダ「じゃあ、夕方にレビューしよう。」
赤ずきんちゃん「わかりました!」
赤ずきんちゃん「SEリーダさん、これレビューお願いします。」
SEリーダ「作業の目的は……そうそう、これでいいですよ。特に、試験で使用する権限は確認してきてくださいね。」
赤ずきんちゃん「ありがとうございます。それでは週末にサーバの森に行ってきます。」
赤ずきんちゃんとサーバの森で
赤ずきんちゃんは、サーバの森にたどり着きます。データセンターですから入館申請の事前申請から当日の入館証の発行まで様々な手続きが山積みです。でも、事前にSEリーダに手続きを依頼していたので予定どおりにサーバラックが林立するスペースに辿り着くことができました。
赤ずきんちゃん「さぁ、事前確認だけだからさっさと片付けてしまいましょう。」
赤ずきんちゃん「サーバに繋げていいPCを出してっと。電源入れて、OS起動して。作業計画リストを出して……そうそう、このサーバに入って、テストユーザと権限を調べればオーケーなんだよね。」
赤ずきんちゃん「ユーザはオーケー!権限……っと。これもオーケー。確か、メールシステムと連携させるんだったよーな。この試験ユーザのメールボックスってどうなっているのかなー。」
オオカミさん、ペロペロ
赤ずきんちゃん「あれれ?なんで前の試験のデータが残っているのかな。あぁそうだったけ。このユーザで前の試験のときにトラぶったんだっけ。ちょっと、どこまでデータが残っているか調べてみよう。」
赤ずきんちゃん「あ、いけない。これひどくない……?さて、どうしよう。もうちょっと追いかけてみようっと。」
赤ずきんちゃん「そうそう、そろそろ作業の途中経過を連絡しなくちゃ。それより、これどうやって解析しようかな。『もしもし?SEリーダさんですか?赤ずきんです。』
SEリーダ「『もしもし、赤ずきんちゃん。お疲れ様です。進捗はどうですか。』」
赤ずきんちゃん「『作業計画の2の2まで終わりました。ところで、確認したユーザさんなんですが、どうもおかしいんですよ。ちょっと調べてみたら……なわけで。もうちょっと調べておいた方がいいんだと思うので何を見たらいいか情報ありませんか。』」
SEリーダ「『そうなんだ。じゃあ、ちょっと状況を教えて……。ふむふむ。なるほど。じゃあアレを見てください……。』」
いつの間にか、予定作業を超えて赤ずきんちゃんはサーバの森の中のオオカミにかどわかされてしまったようです。それも、赤ずきんちゃんばかりではなくSEリーダまで一緒に……。
心配性のプロジェクトマネージャ
心配性のプロジェクトマネージャ「(あの環境、ほかのチームが環境管理しているからな。前の時もエライ目にあったんだよ。大丈夫かな?)」
心配性のプロジェクトマネージャ「ねぇ、SEリーダさん。赤ずきんちゃんの作業の進捗どう?予定どおり?それとも何か見つけちゃった?」
SEリーダ「はい。実は、アレがコレでして。いま、コレをもう少し見るためにソレを調べてみようと。」
心配性のプロジェクトマネージャ「(は?この人何言っているんだ?)」
心配性のプロジェクトマネージャ「で、今どうなっているの?」
SEリーダ「はい。試験ユーザのアレがコレなので……どうなっているか調査をしているところです。(キリッ」
心配性のプロジェクトマネージャ「(ふぇぇ。また迷子になっているよ、この人達。あれほど日頃から目的を意識して作業しようね!って言っているのに。)」
心配性のプロジェクトマネージャ「SEリーダさん、SEリーダさん。あの、教えて欲しいんだけど。今日の作業の目的はなんでしたっけ?」
SEリーダ「試験前の環境の確認です。それが?」
心配性のプロジェクトマネージャ「じゃあ、今日予定していた作業の目的はできた?出来ていない?」
SEリーダさん「確認できています。」
心配性のプロジェクトマネージャ「ふうん。ところで、今何の作業しているの?」
SEリーダさん「だからトラブルが……。」
心配性のプロジェクトマネージャ「それ、今日の作業?」
SEリーダさん「いいえ。違います。」
心配性のプロジェクトマネージャ「じゃあ、まず、今日の作業を終わらそうよ。トラブル解析をするかどうかはその後で。」
心配性のプロジェクトマネージャは取り敢えず、迷子になっている二人をサーバの森から見つけ出すことに成功しました。でも、トラブルのタネは見つけてしまったので情報だけは回収してきたいと思ったのでどのログを回収すればいいかSEリーダと会話してそれを赤ずきんちゃんに回収してもらうようにお願いしたのでした。
赤ずきんちゃん、ふりかえりする
赤ずきんちゃんは、サーバの森から帰ってきました。ログのお土産を持って。勿論、ログの持ち出しは許可済みです。ログの携行は心配なので、サーバの森からモバイルでプロジェクトのサーバにアップロード済みです。
心配性のプロジェクトマネージャは考えます。このチームの良いところは真面目で、トラブルにさえ、前向きに解決しようとするところも一つに挙げられます。でも、本来の目的を飛び越えて障害解析を始めてしまうところは毎回ブレーキを踏まないと止まれないところが玉にきずなのです。
こうしたチームの特性の様なものは幾ら口頭で言ってもそのときに思い出さなければ効果はありません。日頃の作業のしくみの中に埋め込まなければ人の行動は変えられないのです。
そこでプロジェクトマネージャは今日の作業のふりかえりをすることにしました。
心配性のプロジェクトマネージャ「SEリーダさん、赤ずきんちゃん。今日はお疲れ様でした。ところで、今日の作業のふりかえりしない?」
赤ずきんちゃん「さっきはすみませんでした。途中から周りが見えなくなってしまって。」
SEリーダ「わたしの方こそ、すみませんでした。わたしがしっかりしていれば……。」
心配性のプロジェクトマネージャ「いや、反省しても何も変わらないからね。これからの作業を変えていけることに何があるかを一緒に考えようね。」
心配性のプロジェクトマネージャ「じゃあ、どこから予定していた作業を踏み越えてしまったんだろうね。」
赤ずきんちゃん「作業計画表のここまでは良かったんですよね。予定作業まで確認できたのでついついいろいろ考えちゃって……。」
SEリーダ「そうそう、ここで連絡もらったら、そこまでできてるとこっちでも共有できたんですね。そのトリガーがあれば。」
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