一斗缶とスキルチャートとセンパイと

「あの、一斗缶に入ったおせんべいが実家から届いたんですよ」
「お母さんから。そう、優しいお母さんだね。ありがたいね」
「それで、おせんべい食べたあとの一斗缶、先輩なら何に使いますか」
「そうだねぇ…、燻製で使うとか、保存食でも入れておくか」
「さすがにアパートで燻製はちょっと」
「まぁ、そうだよね。あ、そうだ。自炊してっけ。してた、ならさ、お米保存したら」
「お米ですか」
「本当はね、お茶箱がいいんだって。お米の保存は。仙台みたく、初売りでもないとなかなか手に入らないからその代わり、かな」
「やってみますね」

「それで、今日の本題はなんだっけ」
「すみません、いきなり一斗缶の話なんかはじめて」
「それはそれで」
「先輩はどんなプロジェクトを経験してきたんですか」
「おっと、個人情報を探られているようだ。興信所かな。もしかしたら気があるの」
「ボケはいいですから」
「ほら、どう話そうかって思案しているんだから、どうして知りたいかをヒントをくれないと」
「いいですけれど。マネージャまでやってまた現場に戻っていますよね。何考えているのかなって」
「ひどい…。帰る」
「はいはい、言葉を選びすぎました。早くゲロしろよ」
「うわぁ、すみませんすみません」
「それで」

「事業単位で言えば、スタンプラリーは終わったよ」
「全部の事業部でプロジェクトやってきたんですか。珍しくないですか」
「そうかもね。割と事業間の壁高いから」
「もしかしたら問題児ですか」
「か・え・る」
「ごめんなさいっ、セ・ン・パ・ィ」
「もうちょっと優しくしてくれていいんだよ」
「つけあがるなよ」
「すみませんでした。珍しいよね。割と絶滅希少品種じゃないかな」
「事業違うと専門も変わるから大変じゃなかったんですか」
「若い頃に異動させらたときは困ったときもあったかな。まぁ、プロジェクトマネージャーになってからは気にしていないけど」
「どうしたらそんな風に考えられるんですか。だってドメイン業務だって違うし、作るものも違うじゃないですか」
「基礎スキルと技術スキルってあるじゃん。あれの基礎スキルと方法論があれば十分だよ」

「それ、スキルチャートのでしたっけ」
「そうそう」
「あれでどうして異事業業種でプロジェクトマネージャーができるんですか。それにマネージャまで」
「なんで。簡単じゃん」
「また一人だけ分かっているんでしょ。教えなさい、センパイ」
「いいけどさ、何年スキルチャート書いているんだよ。スキルセグメント、基本スキルや技術スキルのな。その中のスキル分類ごとのスキルを攻略すればいいだけじゃん」
「攻略ってふざけているんですか。真面目に」
「いやいや、いたって真面目。攻略本なんだよ、あのスキルチャート」
「意味わかんないです」
「スキルチャートあるじゃん。紙なにかあるかな。ほら、基礎スキルと技術スキルな。それの中にスキルがある」
「ありますね」
「それをas isで評価するのな。通常は期首にやる」

「目標管理ですね」
「そうそう。それでto beに印を入れる」
「ふうん」
「そこのキミ、わかっていないだろ」
「わかっていますよ」
「じゃあいいや。それでto beを今年の仕事で埋められるように対象のスキルを明確にする」
「…」
「対象のスキルはレベルも明確にな」
「スキルとレベル」
「そうそう、仕事でスキルを使ったと言えるように実績を残す」
「それだと、スキルを使う仕事、プロジェクトにアサインされないと埋められないですよね、実績で」
「そんなわがまま言っていたらいつまでたってもプロジェクトにアサインされないじゃん。アサインされた仕事からスキルを使える仕事を作るんだよ」
「アサインされた仕事と違うことやっちゃったら怒られますよ」
「違うって。例えばリーダーシップをレベルアップしようと思うじゃん。リーダだけしかリーダーシップって使わないと思っている」
「そんなことはない…かな」
「そうだろう。技術スキルの言語なんかはちょっと無理だけど基礎スキルや技術スキルの方法論ならできる可能性はある。それを当てはめるってこと」

「そうか、そうですね。センパイ頭いいですね」
「いつか殺す」
「褒めているんですよ。もっと喜んでいいんですよ」
「あ、そうなの。やったね。でさ、いいかい。そうやってas isのスキル育ててto beを埋めていくんだよ」
「へえぇ」
「わかってるのかな」
「もちろん」
「もう一度言うけどさ、空っぽの一斗缶が成りたい自分のto beなんだよ。それをスキルでいっぱいにする。そのために仕事の実績、エビデンスでいっぱいにするんだよ」
「将来が一斗缶ってどうなの、センパイ」