キャリアの悩みには壁打ちがいい

エンジニアのキャリア、業務経歴を聞いていると誰一人同じことはない。壁打ちしたいというエンジニアのキャリアは割と悲喜交々、少しだけ悲が多いようで、いや、だから壁役を欲しているのかもしれない。

組織のエンジニアは部下になるから、キャリアの相談は仕事の内だ。ただ、マネージャ全員がそう思っているかと言えばそうでもないようだ。

あるグローバルなエンジニアの組織では、ローテーションが早く、マネージャもエンジニアもグルグルと回るため、マネージャは担当事業にフォーカスし過ぎて、エンジニアの育成には関心がないとエンジニア目線では見えている。

だからか、壁打ちの壁役を引き受けて欲しいとエンジニアは言う。

個室の居酒屋で話を傾聴する。これまでの経験を業務経歴書をなぞるように、丁寧に。壁に向かって呟けば、同じ言葉をリピートし、壁へのつぶやきを受け止めているとリアクションする。

自分の経歴と共通項があれば、その辺りは同じだと、タイミングを見て差し込む。壁とは言え、一方的に聞いているのではなく、壁に向かって嘆きたい、誰にも自慢できないと思っているキャリアのところどころが重なっていると伝える。

傷を舐め合うためではなく、かわいそうだと思うわけでもなく、ただ、共通項があることで、心理的な距離感を縮める目的で。

傾聴している間、いや、会計をして改札に吸い込まれるまで、一切の否定や壁側の意見は押し付けない。壁に嘆き、頭の中でどうしようか迷い迷っていて、でも、内心、方向性への確信はあり、その背中を押して欲しいと思っている。

エンジニアのキャリアは組織の都合と本人の希望の積み重ねだ。しかし、これからのキャリアの方向性を意識して、自分で決めることはできる。実際に組織の中で自分で決めた方向性の担当職に配置されるかは別であるが、willを持っていなければ組織に都合よく使われるだけだ。機会を作り、機会を手に入れられるのは、意思を持っているかどうかにかかっている。

良い壁役は、メモをとる。アナログでもデジタルでも構わないが、テキストエディタのようなものよりは、スタイラスペンで描くほうが良い。

タブレットなら、壁へのつぶやきのポイント、キャリアの方向性、選択肢、将来像などピボットしやすい分岐点にマークを入れて確認しながら聴ける。

壁役を欲しいのは、将来をよくしたいからだ。過去を嘆いているなら今はよくなっているし、今を嘆いているなら過去はよかったのだ。でもどちらも変えられない。変えられるのは自分の将来だけだ。

だから、壁はアクティブに聴き、メモを残しながら、将来どうしたいのかを聞く。将来像があるのか、野望があるのか、そうしたことをディティールアップしながら書き残していく。

エンジニアは多くの情報から必要な情報を整理するのが上手い。仕事で実践させられるからだ。ただ、ことが自分に向くと話が変わってくる。頭の中で妄想だけループして希望しない選択肢だけが記憶にこびりつく。

だから、壁は何が頭の中に入っているかを可視化する。壁役なのに聞いていることをグラフィックレコードしない壁は願い下げしたほうがいい。

壁に嘆きながらも将来像を聴き始めると考え始める。記憶からどうしたいかを自問し始める。誰も将来のことはわからない。ただ、そうありたいことに対して解像度をあげられるのだ。

壁は将来の解像度をあげる役だ。

だからその補助にグラフィックレコードとしてメモが必要になる。

壁打ちをしたいエンジニアが自身で嘆きたかったことと将来を語りきったとき、終わりの時間だ。その場でグラフィックレコードを共有する。

壁役もそこで終わりである。

壁打ちをしたければ、組織外の人のほうがいい。利害関係はなく、恣意も働かず、ニュートラルに、ひたすら聞いてもらえる人に。

 

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