タスクの完了予定日を平均工数で算出してはいけない理由


プロジェクトマネージャが嵌る落とし穴って一杯ありますね。知らなければ避けることは出来ないし、知っていたからといっても予見できなければやっぱり嵌ってしまうし、原理というか、しくみをわかっていないと間違った追求をしてしまう。


標準工数・平均工数の罠というものがあります。名前はたった今つけました。はい。言葉の定義は以下のとおりとします。

標準工数(平均工数)

  1. ある作業を行ったときの基準となる工数。複数のシステムエンジアが同一の作業を行ったときの平均の工数。

[用法]

  • 作業見積もりの工数の基礎数値として利用する。標準工数*機能数、など。
  • 実作業を計測して工数を人数で割った値。合計工数/人数、など。


見積もり時に標準工数を使う
工数見積もりで多く取りれられている見積もり手法がKKD(勘・経験・度胸)だとしたら、それは占いと同じレベルであることを認識し直さなければなりません。例え、今までそれで上手くいっていたからといってこれからも見積もりのとおりに実績が出ると誰も保証できないからです。KKDで見積もった保証は見積もった本人が負うべきものです。


客観的にみて知見を持つ有識者が同意できる手法をとる必要があり、一番手近で取り組みやすいのが類推見積もりです。類推見積もりでは、過去実績がその見積もりの根拠になるため、見積もりで必要となる項目を実績値から記録しておく必要があります。


類推見積もりのための基礎数値として取得しておく実績値には次のような項目があります。

WBS(レベル2程度)単位別の工数
・システム間インターフェース数(インプット/アウトプット別)
・システム環境数(本番/ステージング/開発などの環境面数)
・工程別期間
・ドキュメント数
・月別別工数
・月別作業工数


詳しくは見積もり関係の書籍に託すとして、ざっくりとこれだけ実績値が見積もり時に参照できれば類推見積もりは可能です。
ここでは月別別工数が実績値として得られ、投下した月別作業工数で割ることで標準工数を得ることができます。こうした実績に基づく事例を累積することで標準工数としての精度は収斂していきますし、標準工数と違う実績が得られた時にはなんらかの特性があることが判別することができます。


プロジェクト計画時に標準工数を使う
まぁ、そうですよね。標準工数で見積もりをしているのですから。標準工数を下回る計画値で見積もりをすれば生産性を自ら落とすことになり、それはコスト計画に影響します。


それが許容範囲の中での生産性の低下であれば問題はプロジェクト計画としてはありませんが、見積もりがズブズブであることを証左しているということでもあります。そんな見積もりで受注できるほど世の中は甘くはありませんけど。


でも、コストは一旦棚に上げて標準工数の生産性を落とそうとすることは全くないかといえばそれはありえますよね。どのようなときに生産性を落としたくなるのでしょうか。


それはプロジェクト計画時にプロジェクトとして必要とするスキルセットとスキルレベルの何れか、若しくはその両方が標準工数の算出前提を満たしていない場合です。もう一つは、開発環境としてのリソースや要求されている性能を満たしていないなどファシリティ的なリソースが調達できないことが判明しているケースです。


ある意味、戦う前から負けが決まっているような環境下にある場合です。こうした環境であることはいち早く掌握する必要があるし、それができないのであれば失敗だけが約束されていると言わざるを得ません。


進捗予測に平均工数を使う
プロジェクトが始まり、計画工数に対して実績を担当者別に取れている状況下では、担当別の平均工数を求めたくなるものです。なぜでしょうか。


それは、生産性の悪いメンバを入れ替えたいから。


実際それをやることで副作用として起きる影響にはろくなものがない、つまり、悪影響しか及ぼさないのですが。


さて、進捗の実績で作業完了を予測したくなるものプロジェクトマネージャとしてのプロジェクトの見通しを立てておく必要があるからです。プロジェクトごとにチームのパフォーマンスは違いますし。


進捗実績で得られた実績工数と日数で担当別に工数の平均を取ることはメンバだけに悪影響を与えるのか…。実は、プロジェクトマネージャ自身にも暗黙でバイアスをかけてしまい誤謬を起こさせてしまいます。


では何が起きるのでしょうか。


それは、メンバ全員が実績から求めた平均で作業をしてくれるという誤った期待を持ってしまう、ということです。


チームメンバは、プロジェクトのチームとして必要なスキルセットとレベルでチーミングされています。全員が同じスキルセット、スキルレベルというわけではありません。バラバラです。


気がついたでしょうか。


リアルなチームメンバのスキルセット、レベルはバラバです。そのバラバラなメンバに対して平均工数で進捗を期待して良いのか。


これがプロジェクトマネージャが標準工数・平均工数で嵌ってしまう罠の一つなのです。