専門家としての仕事をしよう
「お、こんなところで。外出してた」
「こんにちは、センパイ。そうですよ。お客様に叱られに行って来ました」
「若いのに宮仕えも大変だな」
「なんですかその宮仕えって。そうだ、こんなところで会ったくらいなんですから時間ありますよね。叱られたので甘い物を補充しないと死んでしまいます。さあ、ここはセンパイは先輩らしく後輩を甘やかすところです。行きましょう」
「なんでそうなる…いつもだけどさ。しょうがないなぁ」
「それで今日は何を叱られたんだ」
「それは教えられません。守秘義務があります」
「そりゃそうだけどさ、秘密情報に触れない範囲でならいいじゃん。そのスイーツ分だけでもリークしろよ。話せば楽になることだってあるんだからさ」
「それもそうですね。一言で話せば資料の詰めが甘かった、というところでしょうか」
「なんだ、自爆か。ふーん、そうか。それで」
「これ以上は教えられません、センパイでも」
「違うよ、何があって資料の詰めを甘いままでいいと判断したんだい」
「あ、そういうことですか。そう…どうして甘くなっちゃったかあまり自分でもわからないんですけれど。会議資料の締め切りに間に合うように出したら…」
「なんとなく分かるような気がするけどさ。まぁ嫌な感じかもしれないけれど仕事で嫌な思いをすること自体がナンセンスだしさ、潰しておいたほうが良いと思うけどね」
「…やっぱりそうですか…そうですよね…うーーーんっと、なんででしょうね時々やっちゃうんですよ。え、そう詰めが甘くて失敗するケースを」
「…まあね(そういったことは自分で答えかもしれない考え方を見つけた方がいいんだけど…なんとなくこの前のことと繋がっているような…)」
「大丈夫です。叱られるのは慣れっこですから。次また頑張ります」
「あのさ、誰のためのその資料は作ったんだい」
「え、もちろんお客様への説明のためですよ。決まっているじゃないですか」
「それはそう答えるかもしれないけれどさ、本当は」
「本当って…本当ですよ」
「違うと思うんだよ。プロジェクトを進めるため、それってチームの仕事が進むためになっているかもしれない。書きっぷりで変わるけどさ。俺たちはエンジニアだからさ、エンジニアの思いが強く出ることの方が自然なんだよ。
いや、顧客の立場でっていう人もいるけれどさ、そこはやっぱりエンジニア、専門家としての見解を踏まえた資料になっていないといけないと思うんだ。それが正しいなら資料は中途半端で作って出してはダメってことになる。そうだろう、専門家としての見解が不十分なんだから」
「難しい言い方しますよね。せっかくアドバイスをするつもりならもう少し私にわかりやすく離してくれてもいいんじゃないですか。それこそセンパイがおっしゃるように専門家として」
「あはは。そうか。まあ、アドバイスってほどでもないんだけどさ。この前に会ったときのことがずっと引っかかっていてさ。なんとなく繋がったんだよ。仕事っぷりで悩んでいるかなってさ」
「…」
「もしだよ。これはそうかも、と思っているだけだからさ。もし、仕事っぷり、出来不出来で悩んているとしたら、その成果が専門家の仕事だと言えるかどうかで判断したらいい。単純な話なんだよ。基準は自分の感情じゃない。お金を出して俺たちの技術をbuyしてくれる顧客へ渡す技術的な価値があるかどうかで判断するんだ。
エンジニアの大義なのかもしれない、なんていうと大げさかもしれないけど少なくとも俺はそうしてきたよ。参考になれば」
「…言い換えると、専門家として恥ずかしくないかどうか、ということですか。そうでうすね少し足らないかもしれません…こうしていられないです。さっきの資料を直さなきゃ。専門家として。ではごちそうさまでした、センパイ。また奢ってください」
「はいはい」
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