逆引きでガントチャートを作るからプロジェクトを失敗させる

「お疲れ様でーす。先輩はなんのプロジェクトでしたっけ」
「ああ、お疲れさん。どこのプロジェクトって、あ、そうか先月で終わったからね。それは教えてなかったな。そーか、それじゃ久しぶりだ」
「そうなんですよ、私もこう見えても売れっ子で忙しいんです。先輩の相手ばかりしてられないんですよ」
「それは助かるな。もっと忙しくなるとこうやって邪魔されずに仕事に…あ、痛っ」
「どうしたんですか、天罰じゃないんですか。神様ってちゃんといるんですね」
「最近の神様は随分とカジュアルな格好しているんだな、ってもう…」
「久しぶりなんですからもう少し嬉しそうにサービスしてくれてもいいでしょ」
「先に賽銭を要求するところも神様だな」
「暇なんですよね、コーヒー奢ってください。どこがいいかな。たまには隣のビルのcカフェに行きましょうか」

「それで今日は何を相談したいんだい」
「別に相談なんてありませんよ。売れっ子ですから問題ありません」
「(相変わらず面倒だな)キミじゃなくてチームで困りごとがあるんだろう」
「(あっ)そうなんですよ、さすが先輩です。ほんと、困っているんです。どうしたらいいかって。もうって感じです」
「まあ、チームの問題はメンバ全員に何かしら問題があるからなんだけどな。それで」
プロマネはベテランの人なんですが、押し付けるんですよ。スケジュール。相談もないし、ヒヤリングもないし、一方的なんですよ」
「スケジュールって工程表のこと」
「そうです。WBSを展開して工数を見積もってからカレンダを当てはめるじゃないですか。大体、稼働だって100%じゃないんですから。予定あるんですよ。カンファレンスとか年休とか。事務処理だってあるのに」
「何と無く想像つくけどもう少しわかりやすく」
「だ・か・ら、プロマネが工程の枠を決めて、その中で作業を終わるようにWBSを作れって言うんですよ。おかしいですよね、絶対。先輩はそんなやり方しないじゃないですか。それでもうチームの中が荒んでいるんですよ。もう、殺伐ですよ」
「なんとなくわかった。質問なんだけど成果物が後から追加されることが頻発しているんじゃない、どう」
「そうなんですよ、無理なスケジュールになっているのにそこに『漏れていた、顧客からのリクエストだから』と言って追加してくるんです。おかしいですよね、顧客の追加要望なら契約見直しじゃないですか」

「と言うことは、元の契約を変えずにやっているのか。聞きたくなかったな。それとなくPMOへインプットしておかないと。知ってしまったからなぁ」
「そんなことは後回しでいいですから。どうしたらいいです、先輩」
「抜けてくれば」
「そんなことできるわけないじゃないですか。みんなの仕事が溢れているんですから。バカなんですか、先輩は」
「ひどいなぁ、心配しているのに」
「心配するならみんなの、あ、プロマネはいいですけど他のメンバは助けてあげたいんですよ」
「そうだなぁ、客観的な情報が足らないな。それを揃えて実現性を見て、あとは内部監査チームを動かすしかなさそうだな」
「大事になっちゃいます…よね。やっぱり」
「どれだけひどいのかがわからないだろう、今は。だから基本は最悪のシナリオで考えておかないと。契約不履行になったらシャレにならないし。いいかい、例え小さなプロエクトであっても赤字になってしまったら契約金額の3倍のインパクトが費用として発生するんだぞ、覚えておくんだよ」
「3倍って…3000万の案件なら1億のインパクトになっちゃうんですか」
「契約した分でパーになるのが3000万、立て直して当初のスコープを履行するのが3000万、リカバリするのに他所からリソース追加で投入するのと管理コストが何倍も増えるから合わせて3000万、ざっくり1億」
「…ええぇそんなに…勿体無い。その7000万私に欲しいです」
「それは違うから。でもさ、そのくらいの腹づもりしておけばどうにかなるよ。最悪のケースだからさ」
「はあ…」
「それでさ、作ってたりしないの。メンバ版のWBSとアクティビティのネットワーク図とか工数見積もったりとか、カレンダに当て嵌めた日程とかさ。作ってあるよな」
「それはもちろん…だってそう必ずしろって先輩が言うから」
「よしよし、偉い。褒めてあげよう」
「いいですって。私にとっては当たり前なことですから」
「そのベテランPMはなんでそんなやり方をしているか知らないし知りたくもないけど。経験知でやっているんだろうな。それをトップダウン型のプロマネと勘違いしている。トップダウン型こそ統制を掛けるために作業見積もりをしっかりやって失敗しないプロシージャを組み立て、習得しないとミスると元に戻せないんだ。自律したチームになっていないからな。
 ところで、そのあれだ、キミが作っているWBSや工程表でだと進捗はどうなの。オン助だったりするんじゃないの。え、そうかアウトプットが増えるからずれていくのか。なるほど。それを除いたら…。だろう、やっぱりな」
「それでどうしたらいいですか、先輩」
「わかった、外の方の上の方から落としてもらおう。無知なPMのせいで赤字を垂れ流されては迷惑だからな。俺の黒字をもっと積めって言われても限界あるしな」
「なんか大事になってしまって…どうしよう…言わなければよかった…」
「違うな、大事になる前に話してくれてよかったんだよ。これで問題が小さければそれで済む話だし。第一、キミからクレームを挙げたことにはならないからそこは大丈夫」
「それは別に構わないんですけど」
「いや、プロジェクトはやり切ってもらったほうがいいからね。変にギクシャクして退場させられるとそれはそれで本望でもないだろうし。よし、心配しないでいいよ。今は自分たちのスケジュールでやることと、みんな残業を規制させたほうが良い。ま、それもあっちの方からくるからいいか。自分の仕事をしてて。
しかしな、今時、なんの都合でスケジュールありきで工程を刻んでガントチャート作って、納期ありきで逆引きでやり切れっていうPMがいるんだ。もう絶滅したかと思ってたよ」
「先輩、変なお願いになってしまってすみません」
「しょうがないだろう、神様から災いのお告げがあったんだから」
「あー、神様から。ならしょうがないですね。あーよかったー」
「(ほんとしょうがない神様のお願いだ…)」