リーダの野望のないところに共通の価値観は育たない

スタートアップやWeb系の組織ではミッションやバリューを言語化することで、組織の価値観を表現しているケースをしばしば見かけるようになった。特に価値観の言語化はニュージョイナーへのフィルタリングとして機能する。ニュージョイナーが組織に対して関心を持ったとき、その組織に入った後に価値観の違いにより離れてしまうのは、組織とニュージョイナー双方の時間とリソースを無駄にしてしまう。何より、価値観の不一致によりエンジニアのキャリアで成果がない時期を作ってしまうとしたら、エンジニアのダメージは少なくない。であるから、組織の中での振る舞い、意思決定に対する価値観のズレは極力避けたい。もちろん、旧態の巨大な組織には経営理念や行動規範をおく組織もあるが、それに共感してニュージョイナーが集まるかと言えばそうではない。組織へのブランドイメージの方が大きい。

組織の価値観は、組織の多重構造、複雑性により希薄化する。以前から何度となく書き残しているとおり、組織の構造は組織の意思決定の表現であり、積み重ねられカルチャーとして出現したものである。組織のカルチャーにスピードがあれば意思決定の階層構造は必要最小限である。機能分掌を優先するのであれば、機能別の階層と役割の分離を組織体制として表現するだろう。一番どうしようもないのは、一見機能別に見えるが分掌が曖昧で多段な組織である。

組織より小さな最小単位の組織、つまりチームのカルチャーは、実は一番如何しようもない組織のチームの中での方が作りやすい。なぜなら、ミッションやバリューに共感してニュージョイナーが入ってこないからである。共感して参画しているのであれば、チームのカルチャーは組織のカルチャーの上の範囲をベースラインになるが、如何しようもない組織のチームはもともと共感する共通の価値観がないから、チームのリーダが好きなようにゼロベースで構築できる。一方、ベースとする共通の価値観がないから共通の価値観を醸成するところから始めなければならないし、共通の価値観を持てる保証もない。どちらからと言えば、チームでの共通の価値観をチーム全員で持てたら奇跡に近いかもしれない。そのくらい、価値観を共有し、価値観で意思決定し続けることのハードルは高い。

それでも一番どうしようもない組織の中の小さなチームであっても(小さなチームの方が望ましい)、チームのミッション、バリューは作った方が良い。それはチームのリーダの野望、つまりビジネスに対するチームの在り方を表現するからである。野望も意思決定の基準も持ち合わせていないなら、逆に持たない方がいい。言葉は一人歩きするし、意思のないその言葉に呪われたようにチームのメンバを拘束してしまうからである。

残念ながら、チームのリーダの野望や価値観をメンバにインストールできたとしても、チームのリーダの権限が制限されているままではチームのカルチャーは不安定な基盤に乗ったままで、いつ崩壊するかしれない。それは組織人事の作用によるものだし、チームのリーダの力が及ぶところではない。

どちらの、組織として共通の価値観を持っているか一番どうしようもなく共通の価値観作りから始めなければならないかであっても、価値観に基づく行動、意思決定の基準をチームにインストールして働くことの価値は他のものに変え難い。

そのためにもチームのリーダの野望は欠かせないのである。